マスマーケティングとは?BtoB企業が活用するメリット・デメリットと成功事例を解説

戦略・フレームワーク

BtoB企業では、限られた業界内での信頼構築や複数の意思決定者へのアプローチが欠かせません。こうした中で、改めて注目されているのが「マスマーケティング」です。従来はBtoC中心の手法とされてきましたが、ブランド認知を広く浸透させる施策として、BtoB領域でも再評価されています。

本記事では、マーケティング担当者や経営層に向けて、マスマーケティングの基本や業界全体への訴求、意思決定者へのリーチ、採用活動への効果など、BtoBならではのメリットを紹介します。同時に、ROI測定の難しさやターゲティングの難点などの課題も整理。さらに業界紙広告や展示会、デジタルサイネージなど、実践しやすい手法と成功のステップも解説します。

マスマーケティングとは何か?BtoB企業視点での基本概念

デジタルマーケティングが主流となった現代においても、マスマーケティングはBtoB企業にとって重要な戦略のひとつです。特に事業拡大のフェーズにおいて、マスマーケティングは従来のWebマーケティングでは到達できない潜在層へのリーチを可能にします。

BtoB市場特有の特性を理解し、適切にマスマーケティングを活用することで、ブランド認知の向上から営業活動の効率化まで、多面的な効果を期待できるでしょう。

マーケティングとは

マスマーケティングとは、多くの人々や広い市場全体に対してアプローチするマーケティング手法を指します。テレビ、新聞、雑誌、看板などの大多数の人が目にするメディアを通じて、特定の業界全体や広範囲の企業群に向けて情報を発信することが特徴です。

BtoB市場における独自の役割

BtoB市場においてマスマーケティングは、幅広い業種や規模の企業をターゲットとする業界において特に有効な手法となります。人材サービス事業や物流・運送会社、ビジネスコンサルティング企業などが代表例として挙げられ、これらの企業はマスマーケティングを通じて広範囲にブランド認知を高め、信頼性を構築する戦略を展開しています。

ただし、より詳細な製品情報や専門的なサービス内容を伝えるため、顧客ごとにパーソナライズされたコミュニケーション戦略も併せて実施することが一般的となっています。

BtoB企業にとってのマスマーケティングのメリット

BtoB企業がマスマーケティングを活用することで得られる効果は多岐にわたります。従来のデジタルマーケティングだけでは到達困難な潜在層へのアプローチが可能となり、企業の成長戦略において重要な役割を果たします。

特に事業拡大のフェーズにおいて、ブランド認知の向上から人材採用まで、企業活動全般にわたってプラスの影響をもたらすことが期待できるでしょう。

メリット1:業界全体でのブランド認知向上

マスマーケティングは一度に多くの人にメッセージを届け、露出を最大化できる手法です。特にテレビは多くの家庭にあるため、企業名やプロダクトの認知率向上に有効となります。

多くの潜在顧客企業に自社を認知させる手段として非常に効果的であり、企業の生産性向上や業務効率化を支援するソリューションを提供する企業であれば、リード獲得の拡大だけでなく業界内でのポジショニング確立にも適しています。

メリット2:複数の意思決定者にリーチ可能

マスコミュニケーションは一度に市場全体や幅広い層にリーチできる特徴があります。メッセージを受け取る母数が大きいため、見込み客層がCTOやIT部門長、経営者などの特定カテゴリーであっても、何割かが興味を持てば一定の数に訴求可能です。

当初イメージしていたターゲット群と違う層が反応することもあり得るため、予想以上の効果を期待できるでしょう。企業の意思決定者は受動的スタンスでもメッセージを受け取るため、幅広い業種や企業規模に自社のソリューションをアピールできます。

メリット3:採用活動にも影響

BtoB企業にとってマスマーケティングは、優秀な人材の採用に大きな好影響を与えます。新聞・雑誌広告、テレビCM、ビルボード、ラジオなどの伝統的なマスメディアでの露出は、企業ブランドの認知度を向上させ、優秀な人材からの応募を増やすのに効果的です。

経済紙や業界専門誌での広告掲載は業界の専門家やキャリア志向の高い人材の注目を集め、テレビCMや大規模な屋外広告は企業の規模や安定性をアピールし、特に新卒採用において効果を発揮します。

BtoB企業が直面するマスマーケティングのデメリット

マスマーケティングには多くのメリットがある一方で、BtoB企業が取り組む際に直面する課題も存在します。効果測定の難しさや高い予算の必要性、さらには多様化する市場ニーズへの対応といった問題は、特に中小規模のBtoB企業にとって大きな障壁となる可能性があります。

これらのデメリットを理解したうえで、自社の状況に応じた適切な戦略を検討することが重要です。

デメリット1:ROI測定の難しさ

マスマーケティングは効果測定が困難な点が課題となっています。テレビCMや看板の効果測定ツールなどは登場しつつありますが、あくまでWebとの連動で調べているため、高年齢層への影響は判断が困難です。

さらに広告にせよCMにせよ、効果の有無はコンテンツのクオリティにも左右されます。どのようなコンセプトや制作スタッフかでも成果は変わるため、オンライン上のニッチマーケティングと比べて予算が大きく修正も容易ではない点が課題となります。

デメリット2:ターゲットの多様化への対応不足

社会が近代化するにつれて、基本的なITインフラが整備された先進国の企業からは、特定の業界や規模に特化したソリューションや独自の課題を解決するカスタマイズ性の高いサービスが求められるようになっています。

こうした状況下では、マスマーケティングによる画一的なメッセージでは個々の企業のニーズを適切に捉えることが難しくなります。機械学習を活用したターゲットを絞ったマーケティングや、企業のウェブサイト閲覧履歴から関心事を推測するデータ駆動型のアプローチの方が効果的に映る場合が多いでしょう。

デメリット3:コスト効率の課題

テレビCM、新聞広告、駅看板などは高額な費用がかかります。継続的に活用できるのは資金力のある企業のみとなり、中堅・中小企業やスタートアップ企業などは手が出せないのが現実です。

特にBtoBの場合、予算を投じても顧客獲得に直接的な効果がすぐ出ない業種が多いため、マスマーケティングの優先順位は低くなりがちです。CMを出せる会社=大手企業というイメージがあるように、最強の営業会社といわれるキーエンス社も広告宣伝をしないポリシーを取るなど、費用対効果の観点から慎重な判断が求められます。

BtoB企業が実践できるマスマーケティング手法

BtoB企業がマスマーケティングを成功させるには、業界の特性を理解した適切な手法の選択が不可欠です。従来のテレビや新聞だけでなく、業界専門媒体やデジタル技術を活用した新しいアプローチも注目されています。

ターゲット層の行動パターンや情報収集方法を考慮し、最も効果的にリーチできる手法を組み合わせることで、ブランド認知の向上と営業活動の効率化を実現できるでしょう。

手法1:業界誌や専門紙での広告

業界誌や専門紙は、BtoB企業にとって効率的なターゲティングが可能な媒体です。雑誌には週刊誌、女性誌、スポーツ紙、ファッション誌などのさまざまな種類があり、新聞よりも層を絞り込んで広告でアプローチできるため、マスマーケティングでありながらフォーカスした広告戦略を展開できます。

手法2:展示会や業界イベントでのPR

業界カンファレンスや展示会などのイベントスポンサーシップは、BtoB企業にとって直接的なリード獲得の機会として重要な手法です。これらのイベントでは、特定の業界や職種に関心を持つ参加者が集まるため、効率的なターゲティングが可能となります。

展示ブースでの製品デモンストレーションや講演を通じて、潜在顧客との直接的なコミュニケーションを図ることができ、信頼関係の構築にもつながります。また、業界内での存在感を示すことで、ブランド認知度の向上と競合他社との差別化を図ることが可能です。

手法3:ラジオやポッドキャストの活用

ラジオは、BtoB企業にとっても効果的なマスマーケティングのチャネルとなり得ます。特に通勤時間帯や業務中にラジオを聴くビジネスパーソンへのリーチが期待できるでしょう。ビジネス向けの専門番組や経済ニュースなどにCMを出稿することで、意思決定者や専門家層に効果的にアプローチできる点が特徴です。

リスナーの習慣的な聴取行動により同じメッセージを繰り返し届けられることで、ブランドの記憶定着を促進できます。また、テレビCMと比較して制作費用や放送料金が低コストなため、中小規模のBtoB企業でも取り組みやすい手法といえます。

手法4:デジタルビルボードの導入

デジタルビルボードは近年注目されている新しい手法として、BtoB市場でも活用されています。従来の看板広告と比べて、デジタル技術の進歩により注目されやすく拡散されやすい特徴があります。3Dサイネージはまだ出始めたばかりですが、今後さらに進化していくと予想されます。

特に主要ビジネス街や新幹線といった企業の意思決定者が多く通る場所での展開により、効率的なアプローチが可能となり、従来の屋外広告よりも高いインパクトを与えることができるでしょう。

BtoB企業がマスマーケティングを成功させるためのステップ

マスマーケティングの成功には、戦略的なアプローチが欠かせません。単に広告を出稿するだけでなく、明確な目標設定から顧客理解、適切なタイミングでの実施まで、体系的な取り組みが重要となります。

BtoB特有の複雑な購買プロセスを理解し、各段階に応じた最適な施策を展開することで、投資対効果の高いマスマーケティングを実現できます。

ステップ1:明確な目標と対象顧客のニーズを把握する

BtoB企業にとって、マスマーケティングの目標設定は戦略の要となります。一般的なBtoCとは異なり、直接的な売上げ増加だけでなく、ブランド認知度の向上や業界内でのポジショニング確立など、より長期的な視点での目標設定が重要です。

BtoB企業のペルソナ分析では、単に企業規模や業種だけでなく、より詳細な要素を考慮する必要があります。意思決定者の役職や企業の技術採用サイクル、現在抱えている課題や痛点、さらには予算規模と決定プロセスまで把握できれば、より効果的なマーケティング戦略を立てられるでしょう。

ステップ2:顧客の感心が高いタイミングを狙う

見込み客や顧客が必要とする情報は、認知や興味・関心など購買に至るまでのフェーズによって異なります。顧客とのタッチポイントを最適化するには、カスタマージャーニーマップ(顧客が商品・サービスを認識してから購入に至るまでの行動や心理状況を可視化した図)の作成が効果的です。商品を認知してから購入にいたるまでの顧客の行動や心理状況を可視化し、顧客視点に立って変化を捉えることがポイントとなります。

このマップは訴求ポイントの明確化に役立ち、コンテンツ制作の際の羅針盤としても機能します。施策の実行・検証を通じてカスタマージャーニーマップを改善し続けることも重要です。

ステップ3:ツールを利用する

マスマーケティングでは莫大な広告費用が必要になるため、さまざまなKPIを定期的に測定し、継続的な改善につなげることが重要です。ブランド認知度は調査会社を利用して定期的に測定し、ウェブサイトトラフィックは特にマーケティング活動後の変化に着目します。

リード獲得数、特にMQL(マーケティング適格リード)の数と質は重要な指標となります。商談化率やCAC(顧客獲得コスト)はチャネル別に分析し、最も効率的なチャネルを特定することで、マーケティング活動の質を評価できるでしょう。

マスマーケティングはBtoBにおいて今でも有効か?

デジタル時代の到来により、マスマーケティングの有効性について疑問を投げかける声も少なくありません。確かにソーシャルメディアやデジタル広告の台頭により、よりターゲットを絞ったマーケティングが可能になりましたが、マスマーケティングが完全に時代遅れになったと結論づけるのは早計です。

実際のところ、マスマーケティングは現在でも多くの場面で有効に機能しています。現代のマスマーケティングはデジタルマーケティングと融合し、より洗練された形で展開されることが多く、BtoB企業においても業界全体への認知度向上とターゲティング広告を組み合わせたバランスの取れたアプローチが効果的となっています。

まとめ

デジタル時代においても、マスマーケティングはBtoB企業の成長戦略において重要な役割を果たします。多様化する顧客ニーズや高額な投資コストといった課題が存在する一方で、業界全体でのブランド認知向上や複数の意思決定者への効率的なリーチ、さらには優秀な人材の採用促進など、デジタルマーケティングだけでは実現困難な効果を期待できます。適切な手法選択と戦略的なアプローチにより、マスマーケティングを活用することで、企業の認知度拡大と営業活動の効率化を実現し、競争優位性を確立することができるでしょう。