ジョブディスクリプションとは?メリット・デメリット、作成方法を徹底解説

戦略・フレームワーク

企業のグローバル化や労働市場の変化を背景に、ジョブディスクリプションの重要性が高まっています。従来の日本型雇用から脱却し、職務内容を明確に定義することで、採用活動の効率化と質の向上を図る企業が増加しているのが現状です。

本記事では、ジョブディスクリプションの基本概念から具体的な作成方法、導入時の注意点まで包括的に解説します。採用後のミスマッチ防止や専門人材の確保など、多くのメリットがある一方で、柔軟性の低下といったデメリットも存在します。実践的な採用改善を目指す人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

ジョブディスクリプションとは?

企業のグローバル化や産業構造の変化を背景に、業務内容を明確に定義して採用・選考を行う「ジョブ型雇用」の導入を検討する企業が増えています。

この流れに伴い、業務内容を定義する書類である「ジョブディスクリプション」への関心も高まっています。

ジョブスクリプションの定義

ジョブディスクリプションは職務記述書とも呼ばれ、社員や採用する人材の職務内容、責任範囲、必要なスキルなどを具体的にまとめた書類です。

欧米では企業の人材募集や人事評価の際に欠かせない書類として広く活用されており、日本でもジョブ型雇用の普及とともに導入する企業が増加しています。従来の日本型雇用では職務内容が流動的で人事評価は勤続年数や勤務態度の比重が高かったため、あまり導入されていませんでした。

しかし、グローバル化やスペシャリスト人材の需要増加により注目されています。

募集要項との違い

募集要項は職務内容、雇用形態、勤務地、給与などを記載し、職務内容については職種と簡単な内容にとどまります。

一方、ジョブディスクリプションは職務の詳細説明、その職務が必要な背景、責任範囲、求められる資質、歓迎されるスキルなどを詳しく記載します。つまり、募集要項は「待遇」の説明が重視され、ジョブディスクリプションは「職務内容」が重視されるという違いがあります。

人材募集時に提示される情報という点では似ていますが、両者の目的と内容の詳しさには大きな差があります。

日本でジョブディスクリプションが注目される背景

従来の日本企業ではメンバーシップ型雇用が主流でしたが、近年は労働市場の変化により状況が大きく変わっています。

企業のグローバル化進展、深刻化する専門人材不足、外国人労働者の受け入れ拡大などを背景に、職務内容を明確に定義するジョブディスクリプションの重要性が高まっています。

ジョブ型雇用の増加

企業のグローバル化や産業構造の変化を背景に、業務内容を明確に定義して採用・選考を行う「ジョブ型雇用」の導入を検討する企業が出始めています。

成果主義の広がりや同一労働同一賃金の導入により、従来の年功序列型の人事制度から転換する動きが加速しています。グローバルに事業展開する企業の増加に伴い、業務やポジションに合ったスペシャリストを求めるケースも増加し、ジョブディスクリプションが欠かせないツールとなっています。

専門職の人手不足問題

現代社会では、IT技術の進化とともにITエンジニアなどの専門職の需要が急速に高まっています。しかし、その需要に対して供給が追いついておらず、専門職の人手不足が深刻な問題となっています。

ジョブディスクリプションを導入することで、求めるスキルや経験、職務内容を具体的に定められるため、企業が求める専門職の人材を採用しやすくなります。

専門性の高い人材確保において、ジョブディスクリプションは重要な役割を果たしています。

外国人労働者の雇用が増加している

日本では労働力不足を補うために外国人労働者の受け入れが増加しており、2022年10月末時点で日本の外国人労働者は約182万人に達し、過去最高を更新しました。

文化や言語の違いからくるコミュニケーションの問題は、外国人労働者の採用における大きな課題となっています。

ジョブディスクリプションを導入することで、外国人労働者に対しても職務内容を明確に伝えやすくなり、ジョブ型雇用に慣れている外国人層にとってもスムーズな採用が可能になります。

ジョブディスクリプションを作成する目的

企業がジョブディスクリプションを導入する背景には、明確な目的があります。従来の曖昧な職務定義から脱却し、組織全体の効率性と透明性を高めることが主な狙いです。

ここでは、生産性向上、公平な人事評価の実現、専門人材の確保と育成という3つの重要な目的について解説します。

組織の生産性が向上する

ジョブディスクリプションを作成する目的のひとつは組織の生産性向上です。各メンバーは役割が明確になることで無駄な業務を排除し、本来やるべき業務に集中できます。複数の業務を担当する場合でも、各業務の配分比率を明確にすることで効率的な業務遂行が可能になります。

それぞれの役割が明確なため、周囲も誰に何を頼めばいいのかわかりやすく、業務連携がスムーズになります。都度誰の担当か確認する手間を省けることで、個人の集中力が高まり、組織全体の生産性向上につながります。

公平な人事評価ができる

ジョブディスクリプションで対象ポジションに求められる役割や目標を明確にすれば、人事評価もしやすくなります。目標が明確なため、達成したかどうかの客観的な判断がしやすく、評価の公平性も増します。

人事評価に重要なのは納得感であり、透明で公平であることが大切です。社員は募集時から求められる役割や達成すべき目標が明確なため、その基準で下された評価に対して不満も出にくくなります。

評価基準の明確化により、主観的な要素が減り、誰が評価しても同じ結果が得られる客観性が生まれます。

専門人材の採用と育成ができる

ジョブディスクリプションで職務遂行に必要なスキルや資格などを明記することで、専門人材を採用しやすくなります。職務を明確に定義して市場価値に見合った報酬を設定すれば、外国人人材を含む多様な専門人材も採用しやすくなります。

さらに、求められるスキルや経験と役割を明確にするため、内部人材の育成や研修などに活用できるメリットもあります。人事評価の際にジョブディスクリプションと現状を照らし合わせて、足りないスキルや能力を可視化することで、フィードバックの精度が高まり、効果的な人材開発が実現します。

ジョブディスクリプション作成のメリット

ジョブディスクリプションの導入は、企業の採用活動において多くの利点をもたらします。職務内容を明確化することで、採用の精度向上と効率化が実現できるだけでなく、長期的な人材確保にも大きく貢献します。

特に採用後のミスマッチ防止と専門人材の確保という2つの重要なメリットについて詳しく解説します

採用後のミスマッチ防止

ジョブディスクリプションで業務のミッションや責任範囲を明確にすることで、採用時に企業側と応募者側のミスマッチを減らせます。事前に明示された職務内容や必要なスキルに基づいて、求職者は自身の適性や志向に合致する職種を選択しやすくなります。

組織の紹介やレポートライン(指揮命令系統)についても記載することで、求職者が職務遂行の具体的イメージを想起でき、期待値コントロールがしやすくなります。

結果として、応募者のマッチ度合いの向上や早期退職の抑制効果も期待でき、企業は退職に伴うコストや新たな人材を探す手間を削減できます。

求める専門人材を採用できる

ジョブディスクリプションで職務遂行に必要なスキルや資格などを明記することで、専門人材を採用しやすくなります。詳細な業務内容や職務権限、期待する成果を明示すれば、求職者が自身のスキルや経験が活かせる職場だと認識しやすくなり、高度な専門人材からの応募が期待できます。

職務を明確に定義して市場価値に見合った報酬を設定すれば、ジョブディスクリプションによる採用活動が一般的である外国人人材を含む、多様な専門人材も採用しやすくなります。基本的に求職者は記載された要件を満たすか確認した上で応募するため、即戦力としての活躍も期待できます。

ジョブディスクリプション作成のデメリット

ジョブディスクリプションには多くのメリットがある一方で、導入時に注意すべきデメリットも存在します。職務内容を明確に定義することで生じる制約や、人材育成への影響について理解しておくことが重要です。

以下では、組織の柔軟性と人材の多様性に関わる2つの主要なデメリットについて解説します。

仕事の柔軟性の低下

職務内容を詳細に定義することで、従業員が記載された以外の職務を積極的に行わなくなる恐れがあり、業務の柔軟性が損なわれる可能性があります。ジョブディスクリプションに基づくジョブ型雇用では、決められた職務の範囲外の業務を行う余地が少なくなるため、企業活動がスムーズに進まなくなるリスクがあります。

特にスタートアップ企業や新規事業などの現場では、企業の変化に伴って業務内容が急激に変化するため、そのたびにメンバーを入れ替えるのは現実的ではありません。ジョブディスクリプションが足かせになって業務遂行が滞る危険性もあり、変化する環境に適応するための機動力が低下する可能性があります。

ゼネラリストの育成が難しくなる点

ジョブ型雇用では、メンバーはジョブディスクリプションで定義された職務に集中するため、スペシャリストが育つ一方で、ゼネラリストは育ちにくいというデメリットがあります。

ジョブディスクリプションは業務内容を特定の領域に限定するため、幅広い領域の仕事を経験することが困難になります。定められた業務の範囲外での人事異動がしにくくなることで、従業員が多様な職務を経験する機会が減少し、広範な知識とスキルを持つ人材の育成が困難になります。

企業はスペシャリストだけで成り立つわけではなく、ゼネラリストも必要となるため、ジョブディスクリプションをどこまで適用するかは組織の状況によって慎重に選ぶ必要があります。

ジョブディスクリプションの具体的な作成方法

効果的なジョブディスクリプションを作成するためには、体系的なアプローチが必要です。情報収集から最終確認まで、各段階で適切な手順を踏むことで、現場の実態と企業の期待を両立させた質の高い職務記述書を完成させることができます。

ここでは、以下の5つのステップに沿って、実践的な作成方法を解説します。

対象職務の情報収集・ヒアリング

ジョブディスクリプションを作成する際には、現場の実態把握から着手します。ジョブディスクリプションで重要なのは、現場の実情や要望との乖離がないことです。

対象職務に関する情報(職務等級、職責、職務内容、権限の範囲、必要なスキルなど)を収集するため、対象職務を担当する社員や現場責任者へのヒアリングが重要になります。現場スタッフへのインタビューやアンケートを実施して、業務内容や求められる能力などを確認し、複数名からの意見を得ることで客観性と信頼性を高めることが大切です。

情報の精査

収集した情報を精査し、対象職務の業務内容を「なぜ」「どのように」行うかを考慮して優先度・重要度・頻度に分類します。各業務について実施理由や方法を明確に整理し、核となる業務を特定することが重要です。

また、必要なスキルや習熟レベルを策定し、職務要件を明確にします。ヒアリング内容をもとにジョブディスクリプションを作成する際は、項目に抜け漏れがないか、記述が曖昧になっていないかを確認し、実態に即した形で整理することが求められます。業務を数値化し、重要性を明確にすることで職務の本質が見えてきます。

フォーマットに沿って情報を記載

精査した情報をもとに、簡潔で具体的な文章をフォーマットに沿って記載します。ジョブディスクリプションは一般的にA4用紙1枚程度のボリュームが適切とされており、限られたスペースでも網羅的な内容を目指します。

情報の過不足がないよう、重要なポイントをまとめて記述することが重要です。内容は明確で簡潔に、かつ読み手に理解しやすい形で記述し、標準的なフォーマットや項目例を参考にしながら作成することで、統一性のある職務記述書を完成させることができます。

複数の視点で最終確認

作成したジョブディスクリプションに対して、必ず複数名でレビューを行います。経営層、人事、現場スタッフ、現場マネージャーへの確認は最低限必要であり、可能なら関連部署にも確認してもらうことが望ましいです。

対象職務の担当社員、管理責任者、経営層など複数の視点で最終確認を行い、現場社員の意見と経営視点を一致させることが重要になります。

内容の正確性、適切性、一貫性を確認し、必要に応じて修正を加えることで、複数の視点でレビューを行うことによりジョブディスクリプションの精度が向上します。

ジョブディスクリプション導入の注意点

ジョブディスクリプションを効果的に活用するためには、導入時の注意点を十分に理解しておくことが重要です。単に書類を作成するだけでなく、現場の実態を正確に把握し、組織全体での合意形成を図り、継続的な改善を行うことで初めて真の効果を発揮します。

現場の声を反映した内容作り

ジョブディスクリプションは、実際の業務との乖離をなくすことが非常に重要です。実態とのギャップが存在すると、求職者の期待値とのミスマッチが発生し、早期退職につながるだけでなく、周囲への悪影響を与える可能性もあります。

実際に業務を遂行している現場スタッフへのヒアリングを実施することで、業務実態を正確に把握できます。現場の従業員からの意見を丁寧に聴取し、現場の実情を正確に反映させることが不可欠であり、これにより生産性向上や人材マネジメントへの活用といった効果も期待できなくなります。

複数の従業員から意見を聞くことで情報の偏りをなくし、より客観的で信頼性の高いジョブディスクリプションを作成することができます。

組織全体の視点を取り入れたバランスの取れた設計

ジョブディスクリプションの作成においては、採用チームだけでなく社内全体からの意見を反映させることが重要です。経営層、人事、現場スタッフ、現場マネージャーなど、役職や職位を問わず多くの人々からのフィードバックを受けて取り入れる必要があります。

上下のみならず横並びでジョブディスクリプションを比較・確認することで、組織全体での整合性を保つことができます。ジョブディスクリプションは組織全体の共有事項でなければならず、社内の全員が参加し、理解し、賛同することで真の価値を発揮します。組織全体を俯瞰した視点でバランスの取れた設計を行うことで、各部署間の連携もスムーズになります。

柔軟性を持たせた定期的な見直しと更新

ジョブディスクリプションは作成して終わりではなく、運用を通じて改訂し続けていくものです。現場は常に変化し続けるため、定義したジョブディスクリプションとの乖離がないかを定期的にチェックし、改訂する必要があります。

ビジネス環境の変化に対応するため、ジョブディスクリプションは固定的なものではなく、定期的な見直しと更新を行うことが重要です。組織再編のタイミング、異動のタイミング、半年または一年ごとの定期見直し、中期経営計画策定のタイミングなど、さまざまな機会を活用して継続的な改善を図ります。事業戦略や市場環境の変化に応じて内容をアップデートすることで、実際の業務内容とのズレを防ぐことができます。

まとめ

ジョブディスクリプションは、採用活動の効率化と質の向上を実現するための重要なツールです。職務内容を明確に定義することで、企業は求める人材を的確に採用し、採用後のミスマッチを防ぎ、公平な人事評価を実現できます。グローバル化や専門人材不足が進む現代において、ジョブディスクリプションを導入することで、組織の生産性向上と競争力強化を図り、持続的な成長を支える人材戦略を構築することができるでしょう。