企業のマーケティング戦略における中長期的な視点に立つと、ブランディング広告は欠かせないものです。ブランディング広告は商品やサービスが売れる仕組みを構築するのに役立ちます。
本記事では、ブランディング広告の目的や重要性などを解説したうえで、成功事例や広告の効果を測定する指標についても紹介します。
ブランディング広告とは
ブランディング広告とは、企業や商品、サービスの認知やブランドイメージを向上させるための広告です。ブランドというと高級ブランドが思い浮かぶかもしれませんが、ブランディング広告は高級ブランドに限ったものではありません。ブランディングは商品やサービスに対して、消費者に共通した認識をもってもらうために行うものです。
ブランディング広告は、たとえば消費者に「このロゴといえば○○」、「お茶といえば○○」、「リーズナブルで質の良い服といえば○○」といったイメージを想起させるための手法になります。
ブランディング広告の目的
ブランディング広告は、ブランディングによって消費者に自社の商品のイメージを浸透させることで、中長期的に売上を向上させることを目的としています。
ブランディング広告によってブランディングが成功すると、頻繁に宣伝のための広告を打ったり、積極的な営業活動を行ったりしなくても、自然に商品やサービスが売れていく状況をつくることができます。
ブランディング広告の重要性
ブランディング広告によってブランドを確立すると、中長期的にみて広告や営業にかかるコストを抑えられるというメリットがあります。
反対にブランディング広告などの施策を行わず、ブランドの構築が図れない場合には、「○○の商品だから買おう」という顧客ロイヤルティが養われにくいため、他社商品との価格競争に追い込まれる恐れがあります。価格競争になって値下げを行うと、利益率が下がるため広告費用がかけられなくなるだけでなく、価格をさらに下げなければ新規顧客の獲得が難しくなるという負のスパイラルに陥ることも危惧されます。
こうした理由から、企業が長いスパンで成長を目指すためには、ブランディング広告によって顧客ロイヤルを獲得していくことが重要といえるのです。
ブランディング広告とレスポンス広告の違い
ブランディング広告と対照的な広告として、レスポンス広告があります。レスポンス広告はダイレクトレスポンス広告とも呼ばれ、広告に接した見込み客に、商品やサービスの購入、あるいは資料請求や問い合わせといったアクションを起こしてもらうことを目的としています。
ブランディング広告は消費者に直接、商品やサービスの購入につながるアクションを起こしてもらうのが目的ではなく、ブランドイメージの向上を目的とした中長期的な戦略によるものです。
一方、レスポンス広告は直接、商品やサービスの購入につながるアクションを促し、短期的な成果を上げることを目的にしているという違いがあります。また、ブランディング広告は売上への効果がわかりにくいのに対して、レスポンス広告は売上への効果を測定しやすいことも異なる点です。
ブランディング広告の種類
ブランディング広告に用いられる媒体には、以下の種類があります。
- TVCM
- 新聞
- 雑誌
- WEB広告
従来のブランディング広告は、TVCMや新聞、雑誌といったマスメディアを利用するのが主流でした。TVCMによるブランディング広告は、不特定多数に向けて広く情報を届けられるのが特徴です。また、映像を用いるため、視聴者の感情に呼びかけやすく、繰り返し流すと記憶に残りやすいというメリットもあります。
新聞は、全国または地域を絞って出稿することができます。また、新聞は比較的信頼性が高いメディアのため、ブランディング広告に用いた場合も信頼されやすいという点がメリットです。ただし、新聞は毎日発行されるため、広告が1日しか価値をもちません。
雑誌は読者層に合わせたターゲティングをしやすいのが特徴で、読者からの信頼も厚いです。他方、読者層とブランドイメージが合わない場合は、広告の掲載を断られることもあります。
最近ではブランディング広告にWEB広告が活用される流れがあり、増加傾向にあります。WEB広告のプラットフォームが充実してきたことや、スマートフォンの普及が要因です。特にスマートフォンで動画を手軽に見られる環境が整ったことで、動画広告が伸びています。動画広告は多くの情報を伝えられ、閲覧者に訴求しやすいというメリットがあります。
ブランディング広告の事例
ブランディング広告などによってブランディングに成功した事例として、以下が挙げられます。いずれも海外のブランドが日本に浸透したケースであり、長年にわたって愛され続けているブランドに成長しています。
- スターバックス
- ニベア
- 東京ディズニーリゾート
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スターバックス
スターバックスは1971年にアメリカ・シアトルで発祥したコーヒーストアチェーンで、日本では1996年に銀座に第1号店がオープンしました。2020年6月現在で、日本だけでも1,581店舗を構えるまでに成長しています。
スターバックスでは、1998年にフラペチーノを広めるためにTVCMを展開しましたが、想定したような効果が得られなかったため、打ち切ったという過去があります。その後は、マスメディアを活用したブランディング広告ではなく、店舗体験によるブランディング戦略へと舵を切っています。洗練された店内やゆったりとくつろげる椅子、ロゴ入りのカップ、コーヒーの香りや音楽、そしてバリスタとの交流といった店舗体験に顧客が価値を感じて、ブランドが構築されていったのです。また、店内で新商品のテイスティングを行い、顧客の反応を開発に活かしています。
スターバックスのTwitterフォロワー数は2020年9月現在で約480万人にも及び、ファンとのコミュニケーションがとれることも、マス広告に頼らないマーケティング戦略をとれる要因となっています。
ニベア
ニベアクリームはドイツ・バイヤスドルフ社の商品として、1911年に発売されたロングセラー商品です。現在では、世界200か国以上、年間約4億3000万人以上が使用しています。日本ではバイヤスドルフ社と花王の合弁企業のニベア花王が製造・販売を行い、1968年の発売以来、累計販売数は2億個を超えました。また、ニベアは主力商品のニベアクリームのほか、スキンミルクやボディミルク、ボディウォッシュ、リップクリームなどのスキンケア商品を展開するブランドとなっています。
ニベアクリームは1911年の発売当時はアールヌーヴォー調の装飾的なデザインの缶でしたが、1925年以降は多少のデザインの変遷はありますが、「青缶」と呼ばれるブルーの缶を採用しています。商品パッケージやブランドサイトなどに、ミッドナイトブルーを使用することで、ビジュアル面でのブランドイメージを確立しました。
また、ニベアクリームは大人から子供まで家族全員が使えるスキンケア商品という特徴があり、ブランドサイトなどには親子が頬を寄せ合う写真が使用されています。日本発売50周年記念となる2018年には、世代を超えて愛されるイメージの確立を狙いとしたブランディング広告として、親子3世代をテーマにしたTVCMが展開されました。
東京ディズニーリゾート
東京ディズニーリゾートは、アメリカ・ディズニー社とのライセンス契約によって、オリエンタルランドが運営しています。1983年に東京ディズニーランドが開業。その後、2000年代にイクスピアリやディズニーアンバサダーホテル、ディズニーリゾートライン、東京ディズニーシーやホテルミラコスタが開業し、滞在型リゾートの東京ディズニーリゾートとして進化しました。2008年には東京ディズニーランドが開業しています。2018年の両パークの入園者数は、過去最高の3,255万8,000人に達しました。
こうした大きな成長を遂げた東京ディズニーリゾートは、広告制作にあたってディズニー社の承認が必要であるなど、徹底したブランドイメージの管理が行っていることが特徴です。ブランドコントロールを行うことで、ブランドイメージを長年にわたって維持しています。また、東京ディズニーリゾートはリピート率が9割にも及んでいて、来園者の体験価値を高めるマーケティング戦略をとっていることも背景にあります。
たとえば、新キャラクターを売り出すときには、マス広告を大々的に打つことはせず、キャラクターに物語性をもたせることに注力し、ダッフィーやジェラトーニなどのグッズの人気につなげています。
ブランディング広告における効果の指標
ブランディング広告の効果を測定する指標はいくつかあり、代表的なものとして以下があります。
- CTR
- CPA
- リーチ
- ブランドリフト
- KPI
ブランディング広告は効果を数値化することが難しく、検証を行うのは慣れていないとハードルが高いです。しかし、費用対効果を検証して、今後の広告展開に活かしていくためには、これらの指標を組み合わせて、効果を測定することが大切です。
CTR
CTRとは「Click Through Rate」の略で、WEB広告で広告がクリックされた比率の指標を指し、クリック率とも呼ばれています。CTRは、広告のクリック数を広告が表示されたインプレッション数で割って算出します。たとえば、広告が1,000回表示されて、10回クリックされた場合のCTRは1%です。
ブランディング広告でCTRは、広告を掲載するサイトがターゲットとマッチしているか、広告の表現がターゲットにとって魅力的であるかといった点を検証する材料になります。
CPA
CPAは「Cost per Acquisition」の略で、顧客獲得単価のことです。WEB広告で1件のコンバージョンにかかったコストを示す指標になります。コンバージョンとは、WEB広告をクリックした顧客から得た成果を指し、商品やサービスの購入、資料請求、サンプル請求、セミナーの申し込みなどが設定されます。CPAは広告費用をコンバージョン件数で割って算出します。たとえば、10万円の広告費用をかけて、20人からサービスの申し込みがあった場合、CPAは5,000円です。
CPAはレスポンス広告では重要な指標です。ブランディング広告は本来、商品やサービスの購入につながるアクションを目的とするものではなく、中長期的な戦略によるものですが、直接的な効果を測りたい場合には、CPAは有効な指標になります。
リーチ
リーチは英語では「Reach」のことで、直訳すると「広がり」や「届く範囲」という意味ですが、特定の期間に広告を目にした人数、あるいは広告を目にした人数の割合を示す指標です。リーチはWEB広告に限らず、交通広告の指標としても用いられています。
WEB広告では、リーチは広告が配信された人数であり、ユニークユーザー数と同じです。あるいは、ネットユーザーに対する、広告が配信された人の割合を算出します。ユニークユーザー数は、IPアドレスなどから判断して、同じユーザーが複数回訪れている人は1回とカウントした訪問数をいいます。
リーチはブランディング広告にどのくらいの人が触れているかを測定する指標です。
ブランドリフト
ブランドリフトは英語の「Brand lift」のことです。ブランドリフトは、ブランディング広告に接触したグループと接触していないグループの2つのグループを比較し、認知度や購買意欲などの意識の違いを数値化した指標です。
ブランドリフトの調査では、同じアンケートをブランディング広告に接触したグループと接触していないグループに行う必要があります。調査方法には調査会社を利用したアンケート調査のほか、アンケート用のバナーを配信して調査を実施するインバナーサーベイやリードバナーアンケートといった手法もあります。
CTRやCPA、リーチでは、ブランディング広告の効果を直接、測定しにくいのに対して、ブランドリフトは認知度やブランドイメージの向上の効果を測定したいときに有効です。
KPI
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、重要業績評価指標のことをいいます。KPIは最終的な目標値に対する中間的な指標として設定するものです。たとえば、最終目標として商品やサービスの購入を設定する場合、KPIは検索エンジンから自社サイトへの流入数やバナー広告からの流入数になります。
ブランディング広告でKPIを設定する場合には、ブランドの認知やブランドイメージの向上には、広告が多くの人の目に触れることが重要なことから、インプレッション数やリーチとするのが妥当と考えられます。
まとめ
ブランディング広告は短期的な効果は実感しにくいですが、中長期的な視点に立つと、顧客ロイヤルティの獲得のために重要なものです。消費者に自社の商品やサービスのファンになってもらい、「○○だったら○○」と選ばれるような状況を構築するには、ブランディング広告にも力を入れていくことが必要です。