地域ブランディングとは
~具体例と失敗例から考える地域ブランド戦略

業界・業種

地域ブランディングとはどのようなものでしょうか。企業のブランディングと違い、地域ブランディングにはいくつかの困難が伴います。

本記事では、地域ブランディングを行ううえで必要なことを一つずつ、見ていきます。

地域ブランディングとは

地域ブランディングとは

地域ブランディングとは、地域産業の活性化や地域自体の魅力・競争力を高めるために、官民一体となって行うブランディング活動です

たとえば、「新潟清酒」や「岡山ジーンズ」など、地域の特産品や産業を世界市場で販売できるようになること。または、地域のPRを行い、インバウンドを含む観光客を誘致するなども地域ブランディングといえます。

地域ブランディングの目的

地域ブランディングの目的は、「地域ブランド」の価値を梃子にして「地元企業を活性化する」ことです。

 たとえば、「シャンパン」はワインのカテゴリーであると同時に、世界的に流通している地域ブランドです。世界には星の数ほどスパークリング・ワインがありますが、シャンパーニュ地方で作られたもののみ「シャンパン」を名乗ることができます。

シャンパーニュには、モエ・シャンドンやヴーヴクリコなど有名なもののほかに無名のブランドもありますが、地域ブランドが一様に「傘」となることで、無名であっても他のスパークリング・ワインよりも価値のあるものとみなされ、高い価格で売られています。

また、地域ブランディングには「地域自体の魅力・競争力を高める」という狙いもあります。こちらはインバウンドなど観光客需要を狙ったもの、または地域の過疎化などを懸念し「街の人口増加」を目的としたものです。そのためには、観光名所のほかに特産品やB級グルメのPRなど「他地域の人が来たくなる」施策が官民一体で行われています。

地域ブランディングの重要性

何故、地域ブランディングに取り組むのか?まず思いつくのは「地域の生き残り」です。

ご存知のように東京や大阪などの大都市ではない地方都市、各地域は人口流出が常態化しています。また経済がグローバル化したことによって、たとえば中国からの安価な商品が地場産業を衰退させてきました。つまり、これまでにない人口減少や競争環境にさらされ、地域においてもブランディングが重要になったのです。

一方で、経済のグローバル化は地域経済にとって市場機会でもあります。現在では、世界中の特産品・商品がインターネットを通じて認知され、かつ購買することが可能です。たとえば、パルミジャーノ・レッジャーノが挙げられます。このチーズも、もともとはイタリアのパルマ、レッジオエミリアといった小さな街のローカル・チーズでしたが、いまでは世界中で消費される食品になっています。

人口流出や安価な外国製品という問題は、このような地域ブランディングによる「攻めの姿勢」によって解消される可能性があるのです。

地域ブランディングと企業ブランディングの違い

私の考えではブランディングそのものの考え方や方法はそれほど変わりません。しかし、地域ブランディングと企業ブランディングとでは実務的なプロセスでは大きく違うと思います。

一番の違いは、官民一体の言葉からもわかるように、地域ブランディングにかかわる人たちの顔ぶれと人数です。たとえば、地域の役所が旗振りとなって商店街や商工会議所を巻き込みながらブランディング戦略を考え実行していく。そこに参加する人たちのコンセンサス作り、実施の協力を仰ぐための説得などは企業ブランディングの比ではないでしょう。同時に参加する人たちは、必ずしもマーケティングやブランディングを理解した人材ではないことも挙げられます。

次に商品の問題があります。たとえば、「青森りんご」や「神戸牛」のように誰もが認める商品力を備えたものがあればよいのですが、現実にはそのようなことは稀です。多くの場合、「これから何を目玉商品にしようか」ということから考えなければならないことが多いでしょう。その時、競争力のないものを「ある」とみなしてしまうこともあります。

最後に予算の問題もあります。地域ブランディングでは、県や国の補助金などを使うことが多く、その金額は必ずしもブランディングに十分なものではないことが多いものです。このような「ヒト」「モノ」「カネ」の制約が多い中で、地域ブランドの戦略を決めて実施していくのは実に大変なことなのです。

●関連記事:企業ブランドの構築と会社の価値~企業ブランディング成功事例

地域ブランディグのやり方

地域ブランディグのやり方

地域ブランディングのアプローチとしてよく見られるものは、以下になります。

  • 地域全体でコンセプトを打ち出す
  • 地域色を出した新商品や特産品をPRする

地域全体でコンセプトを打ち出す

もともと地域がもっている魅力やイメージを、統一コンセプトとして打ち出す方法があります。たとえば、香川県は「うどん県」、大分県は「おんせん県」、「餃子のまち、宇都宮」などです。さらには、京都や奈良の「歴史」、知床や屋久島の「自然環境」なども例として挙げられます。

もちろん、これによって狙うのは観光客の増加です。地域の特徴をシンプルに言い表すことで「来るべき場所である」「観光の目的地(JRが行うディスティネーション・キャンペーン)」を示すわけです。これの良いところは次の3つです。

  • すでにある観光資源を活かすので、あらたに商品開発をしなくてよい
  • そのままの商品で十分説得力がある
  • コミュニケーションにフォーカスしてカネを使うことができる
    など

一方で、もし商品が中途半端なものや、購買に耐えられるものでない場合、消費者の失望で地域ブランドのイメージを落とすリスクもあるでしょう。インバウンドを狙って観光協会のウェブサイトに大きなお金をかける地域がありますが、その前に「わが地域の売り物は本当に商品として買うに足るものか」「商品力はあるが、地域施設は“もてなし”のレベルにあるか」などを検討する必要があります。

地域色を出した新商品や特産品をPRする

ここ数年、「ご当地グルメ」で地域をブランディングする事例が多く見られます。「金沢カレー」「大阪お好み焼き」「門司港焼きカレー」「月島もんじゃ」「讃岐うどんバーガー」「湘南しらす丼」「福井ソースカツ丼」「よこすか海軍カレー」などです。これらはもともと地域がもっていた「食のブランド資産」「イメージ」を、地域ブランドのパッケージに昇華させたもの、または新たに開発されたものと思われます。

まず、ご当地でB級グルメのイベントなどを行います。ご当地キャラの「ゆるキャラ」も登場し、県外からの観光客に楽しんでもらう。参加したお客さんは当日、SNSで県外へ発信。さらには、「後日、ネットでリピートしてもらえるとありがたい」という流れになります。この取り組みは、企業の行うブランディングに近いものでしょう。

筆者が手掛けた事例

筆者が手掛けた事例

新潟県酒造組合では、酒造組合50周年の記念事業として、2004年「にいがた酒の陣」という清酒イベントを開催しました。

新潟県には約90社の蔵元があり、そのなかには「久保田」「八海山」などよく知られたブランドがある一方で、あまり知られていないものもありました。それらが「新潟」という地域ブランドを梃子にして、いまよりももっと売れることを目指したのです。2011年の東日本大震災、2020年の新型コロナウィルスの蔓延による中止を除き、長きに渡り実施を継続しています。

現在、新潟市内で行われるたった2日間のイベントには、日本全国や海外から15万人もの来場者が訪れます。日本酒全体の市場を県別シェアで見ると、やはり灘(兵庫)、伏見(京都)が上位ですが、第3位は新潟です。しかも純米酒以上のプレミアム・セグメントでは新潟県が最も高いシェアを誇っています。いまでは国内に限らず「にいがた酒の陣 in 香港」を開催。新潟清酒のグローバル戦略を開始しています。

新潟清酒にみる地域ブランド成功要因

なぜ新潟清酒は上手くいったのでしょうか。ここに地域ブランディングのコツがあります。最初にあるのは「実行委員の当事者意識」であり、これがなによりも絶対的に大事です。

実行委員会のメンバーは約20名。全員が蔵元の社長や役員です。忙しい仕事の合間をぬって、毎月1回の実行委員会(需要振興委員会)に参加してくださいました。「やらされ仕事」ではとても無理なことです。

次に「情報」です。実は「にいがた酒の陣」にはモデルがありました。毎年、ミュンヘンで行われるオクトーバーフェストがそうです。270年の歳月をかけても色あせず、毎年世界中からビール祭りに参加する人が絶えません。私たちは、「その秘訣は何か」を企画段階で徹底的に研究をして企画に活かしました。

さらに「実行力」も重要です。当日は約90社の蔵元がそれぞれにブースを出し、来場者である消費者と「酒」について熱く語りました。ここでも「当事者意識」がありました。

そして「レビュー」も外せません。私たちは毎回、出口調査を実施し、分析を行い、そのレビューを元に課題を抽出しました。そのレビューは実行委員会のみならず組合員全員に共有され、次年度の「新たな挑戦」が議論されたのです。

つまり非常に理想的なPDCAができていたのです。そしてこのPDCAが「毎年のリズム」として定着していたのが新潟清酒の成功要因です。「当事者意識」「情報」「実行力」「レビュー」「新たな挑戦」。これらのものが、「ヒト」「モノ」「カネ」を超えて地域ブランディングを成功させる要因だといえるでしょう。

まとめ

地域ブランディングは「地域産業の活性化」「地域の魅力を高める」ものですが、その背景には人口減少やグローバル経済化などによる地域生き残りの危機感があります。「ヒト」「モノ」「カネ」の制約は企業でのブランディングより大きいですが、官民一体となり地域の実行委員会が「当事者意識」「情報」「実行力」「レビュー」「新たな挑戦」を心がけることで、成功に結び付ける可能性が高まります。

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記事執筆者

水野与志朗

PROFILE

味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)、欧米の外資系数社にてブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。書籍出版をきかっけにフリーのコンサルタントとして独立。2005年に水野与志朗事務所株式会社を設立。
「全力でクライアントに向き合う」をモットーに200社以上のマーケティング、ブランド戦略の業務支援・協力を行う。事業会社のブランド・マネージャー出身であることから「売上責任をもった事業経営者の視点」に立脚した支援を得意とする。