ブランディングの意味とは~目的・種類とブランディング力を上げる方法

ブランディングとは

本記事では、ブランディブランディングとはなにか?またブランディングにはどのようなものがあるのか?など、ブランディングを学ぶ人たちに向けて「実務に役立つブランド談義」をしてみたいと思います。

ブランディングとは

ブランドの語源はburned(焼き印をする)だと言われています。昔、カウボーイが自分の牛と他人の牛を区別するために、牛の尻に自身のマークの焼き印(burned)をして区別していました。そして、いつしかこのマークがブランドと呼ばれるようになったのです。

現代の企業社会において、ブランドは名前やマークとして表現されることが多いですが、本質的には語源からもわかるように、消費者や顧客に「他社製品と自社製品の違いをはっきりさせるもの」だと言えます。

一言で定義するなら、ブランドとは「識別」です。そして、識別されるために行われるすべての活動をブランディングというのです。

ブランディングの目的

では、なんのために識別性を高める必要があるのか?それは販売効率を高めるためです。製品が自動的に、次から次へと売れていく状況を作り出すことといってもよいでしょう。

たとえば、スーパーに並んでいる商品であれば、「お店に行く前から買うものが決まっている」状況といってもよいのです。日頃使っている醤油が少なければ、「醤油を買い足さないと」と考える。そして、スーパーに行く前から「キッコーマンのあれを買おう」と決めていることが多いものです。この場合は最初から指名買いであって、その時に競合はいません。これが「販売効率が良い」状況なのです

一方、「販売効率が悪い」とはどのようなことをいうのか。たとえば、その日は友人とキャンプに出かけ、バーベキューをすることになった。そこで、日頃使うことのないバーベキューソースを買うことになりました。店頭には数種類あるため、購入までには以下のステップを踏むことになります。

  1. まず知っているブランドを探したが、どれも知らない
  2. 仕方ないので最も目立つパッケージのものを手に取って、どんな味なのかを理解する
  3. 次に別のパッケージを取って何が違うのかを理解する
  4. 量と価格を検討しどちらがいいかを考える
  5. 最後に本当にこれで良いかどうかの決断をして、レジに進む

これが効率の悪い状況なのです。すべての課題は「どのバーベキューソースもなじみが薄く、よく知らない」点にあります。販売効率の悪さとは、「知られていない」ことが原因なのです

ブランディングの重要性

前述したバーベキューソースの例は、製品(Product)はたしかに店頭にあるけれど、ユーザーの記憶には存在していない(Brandではない、焼き印がされていない)ということです。そうなると、何を選んでよいかわからないだけでなく、本当にその製品でよいのかどうかもわからないのです。消費者や顧客にとっては、「安心して買える」「あまり悩まずに買える」こともブランドのメリットなのです。

これを企業の立場からいうなら、「信頼を得ている」ことがブランドの条件です。ブランディング(Branding)とは、消費者や顧客の信頼を一段ずつ蓄積して、やがて顧客や消費者がニーズを感じた時に「あまり考えず選んでよい商品」と位置付けられるようにすることなのです。

ブランディングの種類

ブランディングの種類

どんなものでもブランドと認知されることは可能です。典型的なのは「企業ブランド」が挙げられます。ここには「コーポレイト・ブランド(例:ファーストリテイリング)」「事業ブランド(例:ユニクロ)」「製品ブランド(例:エアリズム)」などが含まれます。

さらに近年では、経営者自身をブランド化するような「パーソナル・ブランド(例:柳井正氏)」も注目されています。これを求める傾向が強いのはIT系やスタートアップ系の企業経営者、またはコンサルタントや個人事業家などフリーランスに近い人たちです。

今後、「人生100年時代」や働き方の多様化を見据えて、会社員であっても自分のブランドを意識するようになるかもしれません。

企業ブランディング

企業ブランドを作るポイントは「ブランド連想」を築くことです。たとえば、「日常着といえばユニクロ」のように、「○○と言えば、このブランド」という連想ゲームを成立させることです。この「〇〇」をブランド・コンセプトといいます。つまり、コンセプトとはニーズに紐づけて自ブランドを連想してもらえるようにする鍵(かぎ)のようなものです。

しかし、実際のビジネスにおいてはここで問題が生じます。たとえば、かつてビール市場ではキリンラガーが最も思い出されやすいブランドでした。「ビールといえばキリンラガー」で他のブランドは入り込む余地が乏しかった。すでに「〇〇」が取られてしまっている状態であったといえるでしょう。

しかし解決策がなかったわけではありません。アサヒは「ドライ・ビールといえばアサヒ・スーパードライ」というように市場を細分化し、消費者の新しい連想を生み出す戦略をとったのです。「ビールといえば」の前に「新しい言葉」を加えた。これを新カテゴリー戦略といいます。この戦略は大成功し、後々「プレミアム・ビールといえばサントリー・プレミアムモルツ」「クラフトビールといえば、よなよなエール」など、新しいブランドが登場するようになりました。

これらのブランドは、「ビール」という大きなカテゴリーのなかに新しいサブ・カテゴリーを作ることだったともいえます。つまり、企業ブランドを作るコツは「自分が一番になれる新カテゴリーを打ち立てる」ことなのです。

●関連記事:企業ブランドの構築と会社の価値~企業ブランディング成功事例

個人(パーソナル)ブランディング

パーソナル・ブランディングでも事情は同じです。新カテゴリーなどというと大げさに聞こえますが、「自分を何かの専門分野の第一人者」としてポジショニングすることと云えばわかりやすいでしょう。これを、「自分の商品価値」と捉えることも多いです。

親しい経営コンサルタントの方を例に挙げて説明します。彼はそれまで中小企業経営者の相談相手としてコンサルティングを行っていましたが、彼の専門分野は必ずしも経営ではありませんでした。しかし会社員時代、大企業に勤め、社長のスピーチライターとして活躍したキャリアがありました。当時、日本にはスピーチライターという職業はほとんど知られていなかったので、私は彼を「日本で最初のスピーチライター」と定義づけました。これは成功し、後々、専門書まで出しました。そして、いまでは「言葉のチカラで組織の求心力を高める経営コンサルタント」として成功しています。

また、別の独立自営業者の方は「人材派遣」を仕事にしていました。これも珍しくない職業です。彼の独自性、専門分野は何か。私は彼の職歴を振り返りました。すると、会社員時代に企業にコンサルタントや研修講師を派遣したキャリアがありました。数百人以上のコンサルタントや研修講師を見てきていたのです。そこで彼を「講師の目利き」としてポジショニングしました。現在、彼は研修講師派遣の専門家として成功しています。

●関連記事:パーソナルブランディングとは~個人のブランディングの効果と事例

ブランド力を上げるには

コンセプトの見直し

ブランド力を上げるには、以下の3つを行います。

  1. コンセプトの見直し
  2. ブランド要素の見直し
  3. ブランド体験の見直し

コンセプトの見直し

コンセプトとは、ニーズに紐づき連想のフックになる言葉です。つまり「○○といえばこのブランド」と思い出してもらえるようになることといえます。

そのため、現在、自ブランドが何らかのカテゴリーを占拠できているかどうか、○○というニーズから真っ先に思い出される状況かどうかを検討することが大事です。もし思い出されない状況なら、前述したビールの事例で示したように「ビールといえばキリンだけれど、〇〇ビールといえば、このブランド」というように、コンセプトを書き換えることが必要になります。つまり「新しい言葉」を既存カテゴリーの前に加えて市場を細分化し、その細分市場でのブランドとして自分を位置付けるわけです。

ブランド要素の見直し

ブランド要素の見直し

ブランド要素とは、ブランドの表現要素です。表現要素には、「ネーミング」「カラーリング」「ロゴマーク」「タグライン」「パッケージング」「キャラクター」など、ブランドの印象を強めるいくつかの戦術ツールがあります。これらを、戦略的に一貫性をもって組み合わせることで、ブランドはより効率的に消費者や顧客の記憶に粘着するようになります。

携帯電話キャリアの会社は「NTTドコモ」「ソフトバンク」「au」「楽天モバイル」などありますが、おそらく最も記憶に粘着しやすいキャリアはソフトバンクでしょう。そこには「お父さん犬」のようなキャラクターがブランド要素としてうまく機能している(もちろんキャラクターだけではないが)からです。

ポイントになるのは、他ブランドと比較してdistinctive(違いが際立っている)かどうかです。もし現在のブランドが競合他社のブランドとよく似ているとしたら、これらブランド要素を再検討するとよいでしょう。

ブランド体験の見直し

コンセプトが決まり、ブランド要素も出来上がると、ようやく消費者や顧客に売る(使ってもらう)ことができます。あなたのブランドを使った消費者や顧客は、使用体験を通じて、満足感や再度購入したいか、友人や友達に勧めたいかなど、なんらかの印象をもちます。これを顧客体験といいます。その体験が好ましいものであればあるほど、記憶に残り、また次回もこれを使おうと考えてくれるのです。

ディズニーランドやユニバーサルスタジオなど、何度もリピートされるブランドの多くは「素晴らしいブランド体験」を提供しているからなのです。逆にブランド体験がありふれたものだと記憶には残りづらく、記憶に残らなければリピートの可能性も薄くなります。ブランド体験が「期待以下」だと問題は深刻で、「このブランドは違う(私向けではない)」という烙印を押されてしまいます。

現在、あなたのブランドの消費者・顧客はどんな印象をもっているか。それが好ましいものであれば、現在の体験を継続し、そうでなければ新たな顧客体験をしてもらえるようなアイデアが必要です。

まとめ

ブランディングは、販売効率を高めるための戦略です。消費者や顧客が何らかのニーズを感じた時に「最初に思い出してもらえる」ことが重要です。他社がそのポジションを占領しているのであれば、新カテゴリーを作ることが必要になります。ブランド力を高めるには「コンセプト」「ブランド要素」「ブランド体験」の見直しが大切なのです。

記事執筆者

水野与志朗

PROFILE

味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)、欧米の外資系数社にてブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。書籍出版をきかっけにフリーのコンサルタントとして独立。2005年に水野与志朗事務所株式会社を設立。
「全力でクライアントに向き合う」をモットーに200社以上のマーケティング、ブランド戦略の業務支援・協力を行う。事業会社のブランド・マネージャー出身であることから「売上責任をもった事業経営者の視点」に立脚した支援を得意とする。