ブランド体験とは~業種別の事例と体験価値から見るブランディングのあり方

戦略・フレームワーク

「ブランド体験」という言葉を耳にしたことはありますか?さまざまな商品やサービスが登場し、一方で消費者の価値観が多様化している現代において、「ブランド体験」は注目されているマーケティング手法の一つです。

本記事では、ブランド体験との概要や重要な理由などを解説したうえで、成功事例を紹介していきます。

ブランド体験(エクスペリエンス)とは

ブランド体験とは、ブランドの世界観をメインターゲットである戦略顧客に体験してもらうことであり、ブランドエクスペリアンスとも呼ばれています。ブランド体験は、顧客がニーズを感じてから、商品やサービスを認知して興味・関心をもち、検討した結果購入に至り、リピーターになるまでの一連の流れで、顧客とのあらゆる接点で起こります。

たとえば、広告に触れる、店舗で実際の商品に触れる、イベントに参加する、カスタマーセンターに問い合わせるといった接点が、ブランド体験に関係します。

ブランド体験の具体的な内容はブランドによって異なります。たとえば、ECサイトの場合、自社サイトやWEB広告で、ブランドストーリーをテキストや動画で伝えるといったことが考えられます。実店舗のあるブランドの場合は、店舗で商品のディスプレイを目にする、スタッフから商品の説明を受ける、試着・試用をするといったこと自体がブランド体験です。

従来の4P分析との比較

4P分析とはマーケティング戦略のプロセスの中で、以下の4つの項目の検討を行い、相乗効果を踏まえて展開するマーケティング戦略です。しかし、4P分析が提唱されたのは1960年代であり、現在とは購買構造が大きく異なります。

  • Product(製品)
  • Price(価格)
  • Place(流通)
  • Promotion(販売促進)

「製品」の面では、画一的な商品を近しい価値観をもった人々に販売していましたが、現在は価値観が多様化しています。

「価格」はメーカー主導で決まっていたのに対して、現在ではチェーン店の台頭によって小売店からの値下げ圧力が強く、ユーザーはネットで簡単に価格を比較することが可能です。

「流通」は系列店での販売が主流の時代から、チェーン店による大量販売の時代へと変わり、さらにネット販売の比重が高まってきています。

「販売促進」ではマス広告の影響が弱くなり、SNSによる拡散が影響力をもつようになりました。

上記により、現在では消費者が商品やサービスを認知しても、すぐに購入につながりにくくなっています。そこで、4P分析のように4つの項目ごとに部門が役割分担をして戦略を練るのではなく、部門を横断して一つの軸のうえで、顧客に対してブランド体験を展開していき、体験価値を高めていくことが必要になっています。

ブランド体験の目的

ブランド体験は、顧客がブランドに対して抱いて欲しいイメージを伝えることが目的であり、その先には他社との差別化、ひいては顧客ロイヤルティの向上があります。

そのため、ブランド体験は顧客を主体として、顧客にして欲しい体験、顧客に抱いて欲しい感情をもってもらう体験を提供していきます。

ブランド体験の必要性

ブランド体験の必要性

ブランド体験が必要とされるようになった背景として、主に2つの理由が挙げられます。

  • 「モノ消費」から「コト消費」への購買構造の変化
  • SNSの普及

現代は必要なモノやサービスがすでに消費者に行きわたり、類似するモノやサービスがあふれる時代です。そのため、新しい商品が市場に出て、成熟し淘汰されるまでのプロダクトサイクルが短くなり、目新しい商品が出てもすぐに汎用化してしまいます。

モノがあふれる時代において消費者は、モノを知るときや買うとき、使うときに、どんなコトを特別な体験として得られるかを重視するように変化してきました。「モノ消費」から「コト消費」へ変化したことで、商品やサービスと接点をもったときに得られるブランド体験が重視されるようになったのです。

また、SNSの普及によって、消費者の体験したことが良い意味でも悪い意味でも拡散される時代になりました。そこで、ブランドに対して良いイメージをもった体験を広めてもらうためにも、ブランド体験が重視されています。

こうしたことから、ブランド体験を戦略的に取り組まなければ、自社の商品やサービスが市場で埋没してしまい、価格競争に巻き込まれるということが考えられます。また、SNSで良い口コミが広まることも期待しにくいでしょう。

ブランド体験の成功事例

ブランド体験の成功事例を業種ごとに4例紹介していきます。

  • ホテル
  • 化粧品
  • レストラン
  • 食品・飲料

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ホテル

「MUJI HOTEL GINZA」は、「感じよい暮らし」を掲げる無印良品の世界観を体験できるホテルです。

ホテルの内装には木や石、土を中心に用いられ、東京の路面電車の敷石や船の廃材が再利用されているなど、無印良品らしさが感じられます。また、共用スペースや客室の家具や電化製品、アメニティは主に無印良品の商品が使われていて、実際に使用感を試してみることが可能。気に入ったものがあれば、同じ建物内の旗艦店「無印良品 銀座」で購入することができます。

また、宿泊料金が銀座としてはリーズナブルで、宿泊料金は1泊1室1人14,000円からです。価格面でも、日用品を適切な価格で提供するという無印良品の姿勢とマッチしています。

化粧品

「L’OCCITANE」では、店舗での接客によるブランド体験を通じて、顧客満足度を高める戦略をとっています。

スタッフの接客スキルを高めるために、接客コンテストを実施し、2019年度で7回目を迎えました。北海道から九州までの全国のショップから選出されたスタッフがエリア予選会に臨み、全国大会のファーストステージでエトワールを選出、ファイナルステージでクリスタルエトワールを選出する流れとなっています。

エトワールはお客様の期待を上回る接客ができるスタッフと位置付けられています。接客コンテストにはスタッフのスキルの向上だけではなく、モチベーションを高めるという効果もあります。

レストラン

「サイゼリヤ」はテレビCMなどのマス広告を展開しないにもかかわらず、「手軽に安くて美味しくてメニューが豊富」という、店舗でのブランド体験によって人気が高まったレストランです。

主力商品の「ミラノ風ドリア」は300円で、ハンバーグは「ハンバーグステーキ」400円から、パスタやピザは500円以下で楽しめるメニューがほとんどです。さらに、アルコール類では「グラスワイン」が100円で、「辛みチキン」や「エスカルゴのオーブン焼き」といったつまみになるメニューもあることから、ファミリー層だけではなく、サラリーマンやOLのチョイ飲み需要までを取り込みました。

さらに、この店舗でのブランド体験が人気となったことで、サイゼリヤで飲んでみた体験を取り上げるニュースサイトやブログが多く生まれ、さらなる需要に結びついています。

食品・飲料

サントリーの「こだわり酒場のレモンサワー」シリーズは、瓶・缶・業務用のシリーズの一体となったブランド体験が、商品の大ヒットにつながった事例です。

最初に展開した「こだわり酒場のレモンサワーの素」は、レモンを丸ごと漬け込んだレモンサワーの素で、自宅で氷と炭酸水で割るだけで好みの濃さのレモンサワーが作れるという商品。梅沢富美男さんを起用したインパクトのあるCMが目を惹き、実際に購入した消費者が本格的なレモンサワーを自宅で簡単に作れるという体験から大ヒットにつながりました。

さらに、居酒屋向けの業務用も同ブランドで展開したことで認知が広まり、そのまま飲める缶商品も大ヒットとなりました。

体験価値のブランディング

体験価値のブランディング

体験価値によってブランディングを行ううえで重要なのは、カスタマージャーニーにもとづいたストーリー性をもたせることです。顧客が認知をして興味・関心をもち、検討した結果、購入に至るまでの行動や思考、感情を時系列で表したものがカスタマージャーニーです。

顧客がブランドと接点をもったときにどんな体験をしてもらい、どのような感情を抱いてもらうか、顧客を主体として時系列でストーリーを描いておくことで、ブランドへの信頼が高まり、購入へとつながっていくのです。

まとめ

ブランド体験は「モノが売れない」といわれる現代で、効果的なマーケティング手法とされています。従来のマス広告を中心としたプロモーションのみでは、消費者に選ばれるのが難しくなってきました。消費者の視点に立って、ブランド体験を重視したマーケティング戦略に取り組むことの需要性はますます高まっていくでしょう。

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