ブランディング、またはマーケティングのフレームワークにはどのようなものがあるのでしょうか。そして、それは企業にどんな効果・効能をもたらすのでしょう。本記事では、主なフレームワークと、それを用いた事例をご紹介します。
ブランディングのフレームワーク
マーケティングやブランディングは、その対象とする製品や顧客がさまざまであっても、同じような思考プロセスを経て計画・実施されることが多いものです。
そのため、マーケティングやブランディングに向けたフレームワークも存在します。それらを使うことで、マーケティングやブランディングの精度や効率性が大きく改善します。
そもそもフレームワークとは
フレームワーク(枠組み)の言葉どおり、思考を論理的に進め、現状の整理や分析、アイデア創出、プランニングを効率的に行うビジネス・ツールのことをいいます。
たとえば、PDCAは最も有名なフレームワークでしょう。マーケティングでは、以下が有名です。
- PEST
- 3C分析
- SWOT
- STP
- 4P
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ブランディングにフレームワークを用いる理由
ビジネスでフレームワークが用いられる理由は、考えを整理しやすいのと同時に、組織内に「そのフレームワークが効率的な問題解決に有効である」という認知があるからです。特に複雑な問題や膨大な情報量を処理しなければならないとき、フレームワークを用いて上司や同僚などと「的を絞った議論」をすることができます。
ブランディングにおいても状況は同じです。市場や競合についての膨大で複雑な情報を整理しながら進める必要があり、そのためのフレームワークが存在します。私が企業の支援をするときも「型」と呼んで推奨しているものがあります。
ブランド戦略の構築から実施までのフレームワークを体系化されており、この「型」に従ってブランディングを開始することで、ブランド・マネージャ―は無駄なく効率的に課題発見や戦略構築を行うことが可能なのです。
ブランディングに役立つフレームワーク
ブランディングに役立つ基本的なフレームワークを簡単に紹介します。
概要 | |
---|---|
PEST分析 | マクロ的環境要因を分析する視点です。P(Politics/政治的要因)E(Economics/経済的要因)S(Society/社会的要因)T(Technology/技術的要因)の状況や予測されるトレンドについて整理します。 |
3C分析 | ミクロ的環境要因を分析する視点です。C(ConsumerまたはCustomer(消費者・顧客))、C(Competitors/競合)、C(Company/自社)の状況やトレンドについて整理します。 |
SWOT分析 | PEST分析と3C分析で整理された情報を、S(Strengths/自社の強み)W(Weaknesses/自社の弱み)O(Opportunities/市場機会)T(Threats/市場脅威)の視点で再分類するフレームワークです。ここから「強み」と「機会」を掛け合わせて戦略を導き出します。 |
PEST分析
VUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)と表現される、21世紀にあって、マクロの環境与件はかつてないほど重要になっています。たとえば政治の混迷、米中貿易摩擦、コロナウィルスの蔓延、ITテクノロジーの進化など、企業はかつてない世界的な変化の中にいます。
ブランディングでもこのマクロ的な変化を捉える動きがあります。たとえば、Uber EatsやZoomはどちらもコロナ禍での環境変化によって注目されるようになった新興ブランドです。
3C分析
おそらく3C分析が最も使われる、環境分析のフレームワークだと思われます。まるでトンビが獲物を狙って上空から地上を俯瞰するように、マーケターも3Cを使って市場環境を俯瞰します。
しかも3Cは何かを計画する際、最初に行います。「新ブランドの計画」「既存ブランドの再構築」のみならず、3か月ごとに行われる「プロモーションの計画」や「営業施策の計画」など、「まず現状分析」という時に必ず使われるフレームワークです。
つまり、どのようなマーケティング施策も「顧客ニーズ」「競合他社の強み・弱み」「自社の強み・弱み」を勘案して計画されるのが一般的です。このような情報を立体的に組み上げることで戦略や戦術が決定されます。
SWOT分析
PEST分析、3C分析で抽出された情報をSWOTの各項目で整理します。主に知りたいのは「市場機会×自社の強み」から基本戦略(進むべき方向)を導き出し、「市場脅威×自社の弱み」から、今後、改善強化すべき課題を見つけます。
マーケティングでより大切なのは、基本戦略の抽出です。たとえば、「消費者が甘んじて受け入れている不便・不都合・不経済」などは市場機会といえます。そこに新製品を投入することはマーケティングの王道的な仕事といえます。
一方、課題抽出は「長い目で見て重要な経営上の課題」を指し示すことが多いように感じています。事業構造の改善、追加投資、人材育成などの課題が挙げられることが多いようです。
コトラーのマーケティング理論
ケロッグ・スクールのフィリップ・コトラー教授が提唱した主なフレームワーク、「STP」を紹介します。STPは、以下の意味から成り立っています。つまり戦略構築の主要ステップがSTPなのです。
- S(Segmentation/消費者ニーズをベースに市場をいくつかの細分市場に分割して整理すること)
- T(Targeting/その細分市場のうち、どの市場を狙うかを決めること)
- P(Positioning/そのターゲット市場において自ブランドの価値を位置付けること)
ちなみに、コトラーのマーケティング理論は時代に沿って変遷してきています。
- マーケティング1.0(製品中心/1900年~1960年)
- マーケティング2.0(消費者志向/1970年~1980年)
- マーケティング3.0(価値主導/1990年~2010年)
- マーケティング4.0(自己実現志向/2010年~現在)
ブランドの重要性、またはブランドがマーケティングの中心概念として登場するのはマーケティング3.0頃からです。インターネットの普及やSNSの登場によって、企業は自社のブランドや製品に関する情報が独り歩きする時代を迎えました。そのような環境で、「いかに企業の伝えたい情報と消費者にとって価値ある情報を正しく効率的に届けるか」が重要な課題となりました。
つまり、「情報を消費者の価値として効率的に届けられるパッケージ=ブランド」が注目されました。以来、ブランドの重要性はいまでも色あせていません。
フレームワークはその企業のマーケティングをカタチ作る
多くの企業でフレームワークは毎日のように使われています。同時にそれぞれの会社で「よく使うフレームワーク」も生み出されているに違いありません。
私も最初に勤めた会社では、「STEPS」と呼ばれる問題解決のフレームワークを使ってマーケティング・プランを立てていました。また、広告クリエイティブ戦略では「CDS:コピー・ディベロップメント・ストラテジー」と呼ばれるフレームワークを使っていました。このCDSのなかに示さなければならない消費者インサイトでは、やはり専用のフレームワークを使っていました。
このように、フレームワークとは日常的に登場するものなのです。同時にそのようなフレームワークが先輩から後輩に受け継がれていくことで、その企業のマーケティング文化や独特なノウハウが伝承され、やがてユニークなマーケティング・カンパニーとして完成していくのです。
ケース①筆者が手がけた事例
ソフト・シンセサイザーのクラウド・サービス導入事例を紹介します。
音楽プロデューサーや楽曲クリエーターなどシンセサイザーへのニーズが「ハードからソフト」へと移り変わるなかで、ハード主体だった事業構造や製品ポートフォリオを、どのようにソフトへ移行させるか。私たちはクラウドの新ブランドを立ち上げることにしました。
マーケター、エンジニア、経営陣が会し、ここでもPEST、3C、SWOTなど基本的なフレームワークが用いられました。
そして市場機会と自社の強み・技術的優位性などを検討し、最終的に製品機能と無数にある音源をクラウドで必要に応じてダウンロードできるサブスク・サービスが完成しました。ハード(楽器)と繋がることで、常に最新・最良の状態で製品の価値を保つことを可能にすることができたのです。
ケース②筆者が手がけた事例
周年事業など全社で取り組むプロジェクトにもフレームワークは有効です。油脂・化成品メーカーのリブランディングを紹介します。
創業120周年を迎え、「今後、自社の事業領域」はどうあるべきか。それに伴う新社名の変更はどうしたらよいかを考えるにあたり、私たちは「120周年事業プロジェクト」を立ち上げ、社内の有志メンバーを募りました。16人のプロジェクト・メンバーと事務局を中心に、会社の将来像や事業領域について真剣な議論を重ねたのです。
そこで使用したのは、PEST、3C、STPです。まずはこれによって会社の将来戦略を描きました。さらにネーミング開発のフレームワークを使い170もの新社名案を作成したのです。社内アンケートを踏まえ、経営陣とも議論を重ね、最終的に新たな社名、コーポレイトスローガン、コーポレイトロゴを発表しました。
まとめ
フレームワークとは仕事の効率化を目的に作られた思考ツールです。フレームワークに沿って情報を集め整理し、考えることで膨大で複雑な情報を上手く理解することができます。マーケティングやブランディングではPEST、3C、SWOTなどよく使われるものがある一方、企業独自のフレームワークも存在するのです。
記事執筆者
PROFILE
味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)、欧米の外資系数社にてブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。書籍出版をきかっけにフリーのコンサルタントとして独立。2005年に水野与志朗事務所株式会社を設立。
「全力でクライアントに向き合う」をモットーに200社以上のマーケティング、ブランド戦略の業務支援・協力を行う。事業会社のブランド・マネージャー出身であることから「売上責任をもった事業経営者の視点」に立脚した支援を得意とする。