企業ブランドの構築と会社の価値~企業ブランディング成功事例

ブランディングとは

企業ブランドとは何でしょうか?また、どのような要素から成り立っているのでしょうか。本記事では、日頃の仕事で混乱することも多いこのようなテーマについて説明します。また最新のブランドランキング調査を紹介し、近年、キーワードになっているイノベーションについても解説します。

企業ブランドとは

企業ブランドには、経営レイヤーに応じ、次のようなブランドが存在します。

  • コーポレイト・ブランド(例:ファーストリテイリング)
  • 事業ブランド(例:ユニクロ)
  • 製品ブランド(例:エアリズム)

業種・業態によっては「店舗ブランド(例:アップルストア)」「テクノロジー・ブランド(例:iOS)」もあります。これらは、それぞれがそれぞれのレイヤーで価値を提供する「経営の単位」でもあり、ブランド経営を重視する企業では、その管理体制が確立しています。

企業ブランドの目的

企業がブランドを作る目的は何でしょうか?一言で言うなら「販売効率をよくするため」です。つまり「効率」が問題なのです。

たとえば、「今日のランチは蕎麦が食べたいな」と考えたとき、あなたの頭の中では「検索」が始まります。「蕎麦と言えば・・・」そこでいくつかの店が出てくるかもしれませんし、「いつもの店」とひとつのブランドが出てくるかもしれません。そしてお昼休みには、その店に足が向くという流れです。お店はあなたに対して何のプロモーションも値引きもしていません。そういった営業努力をしなくても、消費者や顧客のほうから「ひとつ欲しいのですが」と買いにきてくれる。これが販売効率のよい状態です。

ブランディングでは、イメージをよくすることや認知を高めることなど、やるべきことはたくさんありますが、すべては「販売効率をよくする」ために行うのです。

企業ブランドの重要性

あなたが何度もそのブランドを使うようになると、「このブランドはどのようなもので、どんなニーズに応えてくれる」のかをしっかり理解するようになります。さらに愛着も湧くようになります。これが、ブランド・ロイヤルティです。ブランド・ロイヤルティが確立すると、今後、あなたがニーズを感じたときには、高い確率でそのブランドを選ぶようになります。

企業にとっての、ブランドの重要性はここにあります。つまり「こちらから毎回売り込まなくても、消費者や顧客が安定的にリピートしてくれる」。販売効率の良い状態です。消費者にとっても、毎回、あまり悩まずに「確かなもの」を買うことができるというメリットがあります。こうしてブランドは、販売・購入におけるプロトコルになるのです。

コーポレイト・ブランドと製品ブランド

「家紋」に見られるように、日本では伝統的に「家」の概念が強い傾向があり、製品ブランドよりもコーポレイト・ブランドが重視されるように感じます。

たとえば、「とらやの羊羹」が挙げられます。「とらや」はもちろんコーポレイト・ブランドで固有名詞ですが、「羊羹」は一般名詞であって製品ブランドではありません。仮にどんな製品ブランド名があっても、消費者はそれを「とらやの羊羹」と呼ぶのではないでしょうか。

一方、欧米ブランドはコーポレイト・ブランドよりも製品ブランドや事業ブランドを重視しているように感じます。ダウニーという柔軟剤(製品ブランド)はP&G(コーポレイト・ブランド)の製品ですが、それがP&Gから出ていようがユニリーバから出ていようが、消費者はあまり気にしないようです。

そのようなこともあり、欧米ではブランドの売買が盛んで、ここにインターブランド社が行うBest Global Brandsのランキング調査の意義があります。「もし、そのブランドを買収(売却)するとしたらいくらになるのか」を知る指標でもあるのです。

企業ブランドと地域ブランドの違い

「新潟清酒」を例に挙げて説明します。「新潟清酒」は地域ブランドです。新潟県酒造組合では新潟という地域ブランドを梃子にして、県下にある約90の蔵元(コーポレイト・ブランド)と500以上の銘柄(製品ブランド)が、すべからく消費者からの信頼を得られるように地域(新潟)をブランディングしています。「この銘柄は知らないけれど、少なくとも新潟(地域ブランド)のものだから淡麗で辛口の酒に違いない」というコミュニケーションを達成するわけです。

新潟県酒造組合は2004年より「にいがた酒の陣」という日本最大の清酒イベントを行ってきました。いまでは、2日間で全国、海外から15万人の来場者があります。そのような活動を通じて、地域を梃子にしたブランディングを行っています。

●関連記事:地域ブランディングとは~具体例と失敗例から考える地域ブランド戦略

製品ブランドの価値を決定する要素

製品ブランドの価値を決定する要素

消費者にとって実際に買うのは製品になりますので、ここでは製品ブランドの価値を決定する要素について説明します。製品ブランドは、以下の3つの掛け算によって成り立っています。

  • 素材価値
  • 情報化価値
  • 関係化価値

素材価値

素材価値とは、たとえば食品では「その製品の味そのもの/美味いかどうか」です。先述した新潟清酒であれば、「淡麗辛口」が素材価値であり、同時に新潟清酒そのものの特徴・味のキャラクターを示すものになります。そのような味を体現するために、新潟県酒造組合では新潟清酒の「産地呼称(A・O・C)」を厳密に定めています。

下記の5つの条件を満たしたものを「新潟清酒」と呼び、それを示す「産地呼称マーク」が各製品に付与されます。これは新潟清酒の素材価値を担保するものなのです。

  • 米:原料はすべて新潟県産米
  • 地:醸造地は新潟
  • 水:仕込み水も新潟
  • 質:精米具合60%以下の特定名称酒
  • 技:品質管理委員会で定めたもの

情報化価値

情報化価値とは、コミュニケーションによって生じる価値のことです。ブランドにまつわるイメージやストーリーなどがこれに該当します。新潟清酒を例にすると、新潟が有名な米の産地であること。もちろん、酒造用には酒米(さかまい)や酒造好適米という特別な米を使用しますが、「米の品質と酒の品質」は美味しい酒造りにとって切っても切り離せないものだと、誰でもわかります。

新潟の代表的な酒米の代表的なものは「五百万石(ごひゃくまんごく)」といわれる品種ですが、新潟県酒造組合では、県の醸造研究所と協力して、「越淡麗」という新たな酒米の開発にも成功しました。淡麗辛口の味わいはこうした「企業努力」から生まれています。これらのストーリーそのものを伝えることで、新潟清酒のブランド価値は素材以上に高まります。

関係化価値

関係化価値とは、「そのブランドをどこで売るか」です。同じ素材価値、情報化価値をもつ新潟清酒も、それが一流の寿司屋や料理店、おしゃれな居酒屋で消費されるか、スーパーの特売棚で安売りされるかではブランドの価値に影響します。

誤解を恐れずに言えば、新潟清酒の多くは「売ることを控える」をこころがけています。「知る人ぞ知るブランド」であることは商品価値をあげる要素です。新潟の蔵元は、あまりに有名になりすぎると「コモディティ化する」ことをよく知っています。「幻の○○」と言われるくらいがちょうどよく、そのような露出場所(売場)、露出の仕方を心がけています。

企業ブランドランキング

インターブランド社が発表している、Best Global Brands 2019紹介します。

順位 ブランド 分類 ブランド価値(対前年比)/単位:百万ドル
2 アップル テクノロジー 234,241(+9%)
2 グーグル テクノロジー 167,713(+8%)
3 アマゾン テクノロジー 125,263(+24%)
4 マイクロソフト テクノロジー 108,847(+17%)
5 コカコーラ 飲料 63,365(-4%)
6 サムスン テクノロジー 61,098(+2%)
7 トヨタ 自動車 56,246(+5%)
8 メルセデス・ベンツ 自動車 50,832(+5%)
9 マクドナルド 飲食 45,362(+4%)
10 ディズニー メディア 44,352(+11%)

トップ100に含まれる日本企業は、次のとおりです(カッコ内は順位)。

ブランド 分類 ブランド価値(対前年比)/単位:百万ドル
トヨタ(7位) 自動車 56,246(+5%)
ホンダ(21位) 自動車 24,422(+3%)
ソニー(56位) 家電 10,514(+13%)
パナソニック(81位) 家電 6,189(-2%)
任天堂(89位) 家電 5,550(+18%)

参考資料:インターブランド「Best Global Brands 2019」レポート

2019年の時点で、これらの成功企業にはいくつかの特徴がみられます。まず上位4位までが、いわゆるGAFAMと呼ばれるITテクノロジーの企業であり、かつブランド価値が5位以下と比べ高く、成長の度合いもずば抜けています(ちなみにフェイスブックは14位にランクイン)。

これらのブランドは消費者(生活者)の生活全般に登場する頻度が高く、かつブランドが大胆にそれまでの生活スタイルや既存の競争環境を変えていくバイタリティをもっています。生活者の視点では、「ワクワクする」、「次は何をしてくれるのだろう」と大いに期待する存在だといえます。つまり、「イノベーション」こそ、これらのブランドに共通するキーワードです。

イノベーションの重要性

イノベーションの重要性

かつて「イノベーション」は技術革新と呼ばれ、もっぱら技術に関するものが主でした。しかし、最近のイノベーションは「製品カテゴリーの再発明」や「生活スタイルの再定義」などパラダイムの変革を意味することが多くなりました。

その背景には、やはりGAFAMのように業界そのものを一新してしまう企業の台頭があります。音楽・出版業界などを持ち出すまでもないでしょう。これらは「破壊的イノベーション」と呼ばれるものです。

これまで市場でのポジションを築いてきた企業ほど顕在的・潜在的にこの脅威を感じています。事実、筆者がイノベーションの案件を請け負う時、クライアント企業によく「もし御社の製品サービスをグーグルが作り変えるとしたら、どのようになるでしょうか」と質問します。

このような視点で自社の製品サービスを見直してみると、それまであったシーズの制限や社内の前提条件などが取り払われ、比較的自由な発想で、議論が活発になります。

自動車会社の将来ドメインの事例

ブランド・イノベーションの事例として、筆者が手掛けたイノベーションの事例を紹介します。

コーポレイト・ブランドがさらに魅力的なものになるよう、「わが社は顧客や世の中から何を求められているか」をインサイトする案件ですが、とても興味深いものでした。これもイノベーションの一環です。

クライアントは世界的に知られた自動車会社。近年、自動車業界は変化や革新が激しく、そのなかで自社の将来ドメインを決めることが重要になっています。私たちは顧客に対して、「将来、この会社に望むことをコーポレイト・スローガンにしてみてください」という調査を行いました。1か月のうちに約100のスローガンが集まりました。そのスローガンを共通項からグルーピングし整理してみると、いくつかの頻出するワードが見られることに気付きました。これらこそが、将来の事業ドメインを指し示すものでした。

まとめ

ブランドにはコーポレイト・ブランド、製品ブランド、地域ブランドなどさまざまなものがあり、特に製品ブランドを構成するものは「素材価値」「情報化価値」「関係化価値」があります。近年、ブランドではイノベーションがキーワードになっており、その傾向はインターブランド社のBest Global Brands 2019でも見て取れるでしょう。今後ますます企業ブランドの構築は会社の価値創造にとって重要性を増していくと考えられます。

●関連記事:ブランディングの成功事例を紹介~成功事例からわかるブランディングのポイントを解説

 

記事執筆者

水野与志朗

PROFILE

味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)、欧米の外資系数社にてブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。書籍出版をきかっけにフリーのコンサルタントとして独立。2005年に水野与志朗事務所株式会社を設立。
「全力でクライアントに向き合う」をモットーに200社以上のマーケティング、ブランド戦略の業務支援・協力を行う。事業会社のブランド・マネージャー出身であることから「売上責任をもった事業経営者の視点」に立脚した支援を得意とする。