マーケティングにおいて、認知の獲得は消費者に購買行動を促すための最初一歩となります。本記事では、マーケティングおける認知の位置付けや重要性を解説したうえで、購買行動プロセスモデルの種類や認知の獲得の方法などを紹介します。
マーケティングの認知とは
マーケティングにおける認知とは、消費者の購買行動において、潜在顧客がその商品やサービスを知る段階を指します。まずは、消費者に商品やサービスの存在を知ってもらわなければ、購買行動にはつながりません。一般的に知られていない商品やサービスのマーケティング施策では、最初に潜在顧客に認知を促します。
たとえば、洗濯洗剤の新商品を売り出すときにテレビCMを流すのは、潜在顧客の認知を獲得するための施策です。
マーケティングにおける認知の位置づけ
消費者が商品やサービスの購入に至るまでには、次の4つのステップによる心理行動をとるとされています。
- 第1フェーズ:「認知」
- 第2フェーズ:「興味・関心」
- 第3フェーズ:「検討」
- 第4フェーズ:「購入」
第1フェーズとなるのが「認知」です。消費者が商品やサービスの存在を知った後、興味をもってもらうのが第2フェーズの「興味・関心」、欲しくなって購入を検討するのが第3フェーズの「検討」で、最終的に選択してもらえると第4フェーズの「購入」に至って顧客となります。
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マーケティングおける認知の目的
マーケティングにおける認知の目的は、その商品やサービス、あるいはそのジャンルの市場があることを消費者に知ってもらうことです。
ただし、消費者が商品やサービスを知っても、自分に関係がないと感じた場合には、すぐに忘れられてしまいがちです。そのため、マーケティング施策では、ターゲットとなる消費者に自分に関係する商品やサービスであることを認知させることがポイントになります。
マーケティングの認知の重要性
マーケティングにおいて認知は、消費者の購買行動のプロセスの入り口となる重要なものです。消費者の購買行動のステップでは、下図のようにフェーズが進んでいくにつれて、人数がすり鉢状に絞り込まれていくのが一般的です。
多くの潜在顧客の認知を獲得していれば、それだけ最終的に購買に至る人数が多くなるため、マーケティング施策では多くの認知を獲得することが重要となるのです。
購買行動プロセスモデルの種類
購買行動プロセスモデルの代表的なものには、以下のような種類があります。
- AIDMA(アイドマ)
- AISAS(アイサス)
- SIPS(シップス)
- AISCEAS(アイシーズ)
このうち、AIDMA(アイドマ)はマスメディアによるマーケティングが主流であった時代から提唱され、消費者の購買行動プロセスモデルのひな型と位置づけられているものです。
一方、AISAS(アイサス)とSIPS(シップス)、AISCEAS(アイシーズ)はインターネット普及時代の消費者の購買行動プロセスモデルです。なかでもSIPSは、ソーシャルメディアに特化しています。
こうした購買行動プロセスモデルをもとに、自社の商品やサービスのターゲットとなる消費者の購買行動を想定して、マーケティング戦略を考えていくことが必要です。
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AIDMA(アイドマ)モデル
AIDMA(アイドマ)は、1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱された購買行動プロセスモデルです。AIDMAは以下の5つのプロセスの頭文字からとられたものになります。
- A(Attention):認知・注意
- I(Interest):興味・関心
- D(Desire):欲求
- M(Memory):記憶
- A(Action):行動
AIDMAの5つのプロセスは3つの段階に分けることができます。第1段階は「認知段階」で「Attention(認知・注意)」が該当し、テレビCMやインターネットの広告などで商品やサービスについて、知る段階になります。
第2段階は「感情段階」で、「Interest(興味・関心)」「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」が含まれます。商品やサービスに興味をもって欲しい、あるいは使ってみたいと感じて購入を検討する段階であり、購買につながるためには、記憶に残ることが重要です。
そして、第3段階の「行動段階」の「Action(行動)」で、商品やサービスを購入する段階です。
AIDMAが提唱された後、さまざまな購買行動プロセスモデルが登場し、「AIDMAは古い」といわれることもあります。しかし、AIDMAは今でも、購買行動プロセスモデルのひな型となる汎用モデルとして位置づけられています。
AISAS(アイサス)モデル
AISAS(アイサス)は電通が提唱する購買行動プロセスモデルで、2005年に商標登録が行われました。AISASはAIDMAをベースに、インターネットが普及した時代の消費行動に当てはまるように発展させたものです。AISASは以下の5つのプロセスの頭文字から名付けられています。
- Attention:認知・注意
- Interest:興味・関心
- Search:検索
- Action:行動
- Share:共有
消費者が「Attention(認知・注意)」の段階で広告などから商品やサービスの存在を知り、「Interest(興味・関心)」の段階で興味をもつところまでは、AIDMAと同じです。
その後、「Search(検索)」の段階では興味をもった商品やサービスの情報をインターネットで検索して調べて、「Action(行動)」の段階で購入します。そして購入した後は、SNSや口コミサイトに体験や感想を投稿したり、周りの人に話したりするなど、「Share(共有)」する段階となります。
AISASはインターネットの普及によって変化した、現在の消費者の購買行動を実情に近い形で現したモデルとして、高く評価されています。
SIPS(シップス)モデル
SIPS(シップス)は、2011年に電通デジタルコミュニケーションセンターによって提唱された購買行動プロセスモデルであり、SNSを頻繁に利用する層に特化したものです。SIPSは以下の4つのプロセスで構成されています。
- Sympathize:共感
- Identify:確認
- Participate:参加
- Share&Spread:共有・拡散
SIPSは第1段階が「Sympathize(共感)」で始まるのが大きな特徴です。SNSの広告ではユーザー同士のつながりによって広まっていくため、共感を得ることが重要になります。
第2段階の「Identify(確認)」は、商品やサービスが自分にとって有益なものであるか、インターネットで検索して情報を確認する段階です。
第3段階の「Participate(参加)」は購入には至らなくても、Twitterのリツイートやいいね、Facebookのシェアなどによって、友人や知人に勧める段階になります。購入を伴わない行動を含めていることも、SHIPの特徴です。
そして、第4段階の「Share&Spread(共有・拡散)」は、SNSで確認した情報や参加した情報を共有すると、友人や知人が拡散していくという段階になります。また、共有や拡散された情報が新たな消費者の共感を呼ぶことで、情報が循環していきます。
SNSとの関連性が強い商品やサービスのマーケティングでは、SIPSを用いた戦略が向いていると位置づけられています。
AISCEAS(アイシーズ)モデル
AISCEAS(アイシーズ)は、2005年にアンヴィコミュニケーションズが提唱した購買行動プロセスモデルです。AISCEASはAISASを細分化したもので、以下の7つのプロセスから構成されています。
- Attention:認知・注意
- Interest:興味・関心
- Search:検索
- Comparison:比較
- Examination:検討
- Action:行動
- Share:共有
AISCEASは、「Search(検索)」までと「Action(行動)」以降の段階はAISASと同じです。インターネットで情報収集を行った後、ほかのブランドやモデルの商品やサービスと比較する「Comparison(比較)」の段階と、実際に購入する商品やサービス検討する「Examination(検討)」の段階が加わっています。
AISCEASには、スマートフォンの普及によってインターネットでの情報検索が手軽に行えるようになったことや、口コミサイトが増えたことによって、インターネットでの比較や検討が容易にできるようになったことが反映されています。消費者の購買の意思決定に、インターネットの影響が大きくなったことを盛り込んだモデルとして評価されています。
マーケティングの認知の主な例
マーケティングにおいて、認知を獲得するための手段として主に次のものが挙げられます。
- SNSを活用する
- プレスリリースの配信
- ビジネス展への出展
- インフルエンサーに依頼
- 広告を出す
認知の獲得の方法によって運用の手間やコスト、期待できる効果などが異なり、メリットやデメリットがあります。
SNSを活用する
SNSには、FacebookやTwitter、Instagramといった種類があります。SNSを活用したマーケティングでは、企業やブランドでアカウントをつくり、商品・サービスに関連する情報を投稿することで、認知を獲得していきます。
SNSの活用は広告の出稿料金のように費用がかからず、自社のファンを育てていけるという点がメリットです。ユーザーからのコメントを通じて生の声も集まります。一方で、アカウントの開設や投稿にはお金がかからないものの、運用には時間や手間がかかることがデメリットに挙げられます。また、批判や中傷のコメントが殺到して炎上してしまわないように、投稿内容のチェック体制の整備や従業員教育を行う必要があります。
プレスリリースの配信
プレスリリースとは、企業や団体が経営にかかわるニュースや新商品・新サービスに関する情報をマスコミに向けて知らせる公式発表をいいます。プレスリリースは主にテレビや新聞、ニュースサイトといったメディアで取り上げてもらうことを目的に発信します。
プレスリリースによる認知を図るには、自社の商品やサービスに関するプレスリリースを作成した後、かつてはテレビ局や新聞社に郵送やFAXで情報を発信するのが一般的でした。現在では自社サイトやSNSを活用してプレスリリースの情報発信を行うほか、配信サービスを利用する方法が広まっています。プレスリリースの配信サービスを利用することで、大手メディアなどにツテがない場合にも情報を送ることが可能となり、内容によっては取り上げてもらえる可能性があります。
プレスリリースはどのような規模・業種の企業であっても、手軽に情報発信を行えることがメリットです。プレスリリースの配信サービスには利用料金がかかりますが、プレスリリースを発信すること自体は、広告と異なり出稿費用がかかりません。ただし、プレスリリースを発信しても必ずしもメディアで取り上げてもらえるとは限らず、報道内容をコントロールできない点がデメリットに挙げられます。
ビジネス展への出展
ビジネス展とは、特定のテーマを設けて出展企業を募り、商品やサービスを宣伝するためのイベントをいいます。たとえば、「東京インターナショナルギフトショー」や「国際コインランドリーEXPO」、「ミートフードEXPO – 焼肉ビジネスフェア」といったビジネス展が催されています。
ビジネス展に出展するには、開催時期の半年~1年前から始まる募集に合わせて参加申し込みを行います。また、ブースの展示物やサンプル、カタログ、パンフレット、ノベルティなどの準備も必要です。
ビジネス展には特定のテーマに興味のある人が来場するため、認知の獲得にとどまらず、見込み客の獲得につながりやすいことがメリットです。一方で、ビジネス展の出展には出展料金などのコストがかかり、展示物やノベルティ、カタログといった配布物の準備に手間がかかるというデメリットがあります。
インフルエンサーに依頼
インフルエンサーとは、ある分野において発言が影響力をもつ人です。タレントやモデルなどの芸能人、読者モデル、スポーツ選手のほか、多くのフォロワーをもつ一般のSNSユーザーもインフルエンサーに含まれます。
インフルエンサーに依頼すれば、TwitterやInstagramといったSNSでの投稿を通じて、商品やサービスの認知を図ることが可能です。インフルエンサーによっては、コスメやファッション、グルメといった特定のジャンルに興味をもつ多くのフォロワーを抱えています。自社の商品やサービスのジャンルに影響力をもつインフルエンサーに依頼することが大切です。
インフルエンサーはフォロワーへの影響力が強く、購買の意思決定に影響力を与えられることや、一般的な広告のように感じにくいことがメリットです。フォロワーなどのユーザーを通じて、情報が拡散されることで、さらに認知の獲得を図れることも期待できます。
一方でインフルエンサーの投稿内容によっては、企業イメージやブランドイメージの低下を招くリスクあることがデメリットに挙げられます。また、スポンサード投稿であることを隠してしまうと、ステマ企業としてイメージダウンにつながる恐れがある点にも注意が必要です。
広告を出す
広告はオンライン広告とオフライン広告に分類できます。オンライン広告に該当するのはWeb上の広告で、バナー広告やリスティング広告、ターゲティング広告といった種類があります。オフライン広告はテレビやラジオ、新聞、雑誌、看板といった媒体を利用した広告です。
広告を出稿する際には、広告代理店を通じて、まず、商品やサービスの認知の獲得が期待できる出稿先の検討を行った後、掲載を希望する媒体に問い合わせて、掲載の可否や掲載時期、見積額などの回答をもらいます。諸条件が合致したら、広告の制作を依頼して、掲載される流れとなります。
広告は出稿する媒体による違いはありますが、適切な媒体を選ぶことができれば、認知の獲得を図りやすいことがメリットです。ただし、広告を出稿するには出稿費用と制作費用がかかり、費用対効果が見合わないケースがあることがデメリットといえます。
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まとめ
消費者に自社の商品やサービスの購入を促すには、まずは認知の獲得を行い、フェーズに応じたマーケティング施策を打ち出していくことが大切です。さまざまな種類のなかから、商品やサービスに合った購買行動プロセスモデルを想定して、認知を獲得していき、最終的には多くの消費者からの購買行動につなげていきましょう。