コミュニティマーケティングは、昨今注目されている比較的新しいマーケティング手法です。企業からの一方通行な情報発信によるものではなく、ユーザーと双方向のコミュニケーションをとるのが特徴です。
本記事では、コミュニティマーケティングの目的やメリット、デメリットなどについて解説したうえで、成功事例を紹介していきます。
コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングとは、共通した興味・関心をもつ人の集団を積極的に活用したマーケティング手法をいいます。具体的には、自社、あるいは自社商品やサービスに好感をもっている顧客が結びつく仕組みや場所を構築して、マーケティング活動を行います。
ただし、こうしたコミュニティは販売促進を図るものではありません。コミュニティを通して多くの人に自社の商品やサービスを認知させることで、販売促進につなげていくマーケティング手法だといえます。
コミュニティマーケティングの目的
コミュニティマーケティングという手法は、主に以下の目的で行われます。
- ユーザーとの距離を縮め、意見を聞く
- ユーザーエンゲージメントの向上
- ユーザー間で教え合い、顧客対応のコストを削減
- 新規の顧客への訴求チャネル
コミュニティマーケティングは、ユーザーエンゲージメントを高めたり、自社の商品開発に役立てたりするほか、新たに顧客を確保するチャネルとすることを目的に行われています。
ユーザーとの距離を縮め、意見を聞く
コミュニティマーケティングを行うことで、ユーザーとの距離を縮めてリアルな声を聞き、商品やサービスに反映させることができます。
コミュニティを構築して企業が情報発信やユーザー同士の交流を行うことで、ユーザーは企業に対して親しみを感じるようになります。また、コミュニティを活用してアンケート調査を実施すれば、スピーディにユーザーの意見を集めることができるだけでなく、同じ人に対して継続して調査を行いやすいという点もメリットです。また、ユーザー同士の双方向のコミュニケーションから、リアルな声を集めることもできます。
ユーザーエンゲージメントの向上
コミュニティで特別な体験ができることで、ロイヤルティプログラムとして機能するようになれば、ユーザーエンゲージメントの向上を図ることが可能です。
たとえば、ユーザーが自社の商品やサービスに関連する分野で、情報を共有できる仕組みを提供するといった例が挙げられます。ユーザーは興味ある情報を得られるという体験を通じて、企業との深いつながりを感じるようになります。
ユーザー間で教え合い、顧客対応のコストを削減
コミュニティにて、ユーザーの質問に対して別のユーザーが回答できる仕組みを構築できれば、カスタマーサービスセンターなどでの顧客対応のコストを削減することも可能です。
カスタマーサービスセンターが営業していない時間帯であっても、ユーザーが回答することで疑問が解決できるケースもあるでしょう。また、実際にはどのように使っているかといった、カスタマーサービスセンターの顧客対応マニュアルでは返答が難しい情報も、ユーザー間で教え合うことができるという点もメリットです。
新規の顧客への訴求チャネル
企業がユーザーと構築したコミュニケティが魅力的であれば、新規顧客の獲得につなげていくこともできます。よくあるのは、「企業がユーザーに提供する情報に魅力がある」「ユーザー間のやり取りから有益な情報を得られる」といったケースです。
たとえば、企業が自社の商品を使用したレシピを発信したり、ユーザーがオリジナルレシピを共有しているのを、その商品を購入したことのない人が目にすることで興味をもち、購入につながるケースもあります。
コミュニティマーケティングの重要性
近年、コミュニティマーケティングが重要になってきた背景には、ライフスタイルの多様化とSNSの普及があります。かつてはテレビCMなどによるマスマーケティングによって、多くの消費者にアプローチして、自社の商品やサービスの認知度の向上を図ることが可能でした。
しかし、ライフスタイルの多様化によって消費者の嗜好が多様化し、マスマーケティングでは潜在顧客へのアプローチが難しくなってきています。また、SNSの普及によって、企業が一方的に発信する情報の信頼性が低下し、ユーザーが発信する口コミが商品の購入やサービスの利用の意思決定に大きな影響を及ぼすようになりました。
そこで、コミュニティマーケティングは、自社の良質なファンを育てるとともに、新たなファンを生むマーケティング手法として重要視されるようになってきたのです。
コミュニティマーケティングとインフルエンサーマーケティングの違い
コミュニティマーケティングと類似しているととらえられがちなマーケティング手法に、インフルエンサーマーケティングがあります。インフルエンサーマーケティングとは、インフルエンサーに企業が意図的に自社の商品やサービスの周知を依頼するマーケティング手法です。
インフルエンサーマーケティングにおいてインフルエンサーは、SNSで発信する際に「#PR」などのハッシュタグをつけることで、企業から依頼された広告であることを明示し、消費者に宣伝と気づかれないように行うステルスマーケティングとの差別化を図っています。
SNSで多くのフォロワーを抱えて影響力をもつインフルエンサーは、一般的に消費者にとって芸能人よりも身近な憧れの人という位置付けです。しかし、インフルエンサーマーケティングによるインフルエンサーのSNSの発信は、消費者には宣伝目的で意図的なものとわかるため、全面的には信頼されにくい点には注意が必要です。
一方、コミュニティマーケティングでユーザーが発信する情報は、自主的に発信されているので信頼されやすいという違いがあります。
コミュニティマーケティングの企業側のメリット
コミュニティマーケティングを行うことによる企業側のメリットは、以下が挙げられます。
- 顧客の本音を聞ける
- 顧客の声を反映しやすい
- 愛着度の高い顧客をつくれる
コミュニティマーケティングは、ユーザーの投稿などを通じて、顧客の本音を聞けることがメリットです。顧客が自社の商品やサービスに対してもっているニーズや不満を反映して、新たな商品やサービスの開発に活かしていくことも可能です。
また、コミュニティで企業やほかのユーザーとの接点をもつことで、より自社の商品やサービスに愛着を感じてもらえることが期待できます。
コミュニティマーケティングの企業側のデメリット
コミュニティマーケティングにはメリットがある一方で、次のようなデメリットが懸念されます。
- 顧客との信頼関係構築に時間がかかる
- 顧客と良い関係を築けないと物が売れない
- 商品やサービスの方向性がブレてしまいやすい
コミュニティマーケティングは顧客との関係構築に時間がかかるため、即効性のあるマーケティング手法ではない点がデメリットだといえます。そのため、コミュニティマーケティングは中長期的な戦略として位置付けることが必要です。
また、企業と顧客の目線が合っていないといった理由から良い関係性が築けなければ、売上アップにつながらないケースもあります。さらに、コミュニティマーケティングで顧客の意見を集めることで、商品やサービスの方向性がブレてしまうことが危惧されます。顧客の意見を重視し過ぎて、従来のブランドイメージから大きく逸脱しないように留意することも大切です。
コミュニティマーケティングの成功事例
コミュニティマーケティングに成功した事例として、Amazonとカゴメのケースが挙げられます。いずれもユーザーであるファンの熱量が伝わるコミュニティが形成されていることが共通しています。
また、インターネット上でユーザーがつながるだけではなく、リアルにユーザーがコミュニケーションをとる機会も設けられています。
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Amazon
Amazonはアメリカ・シアトルを本拠地とするECサイトを運営する企業で、世界で約3億人を超えるアクティブユーザーがいます。Amazonは、「AWS(Amazon Web Services)」というクラウドサービスを日本で展開するにあたって、「世界最大のeコマース」企業というブランドイメージが通用せず、「なぜAmazonがクラウドサービスをやる?」といわれてしまうという課題を抱えていました。
そんな状況下で、AWSの日本での浸透に大きく貢献したのが、AWSのユーザーのコミュニティとして2010年2月に発足した非営利目的の「JAWS-UG(AWS Users Group – Japan)」です。JAWS-UGは日本全国に支部をもち、勉強会やイベントを開催しています。また、JAWS-UGのメンバーが「#jawsug」のハッシュタグをつけて情報を自発的に発信することで、コミュニティに参加するユーザーが増えて、さらにAWSを導入する企業が増えるという効果を生んでいます。2017年の時点でJAWS-UGは、日本全国に約50支部を設けるまでに成長しました。
カゴメ
カゴメはトマトケチャップに代表される調味料や保存食品、飲料などの製造・販売を手がける食品メーカーです。カゴメは2014年に「野菜生活」などの野菜系飲料の売上が伸び悩んでいたことから、市場の分析を行ったところ、2.5%のユーザーの購入が売上の30%を占めているという特徴が判明しました。
そこで、ヘビーユーザーに目を向け、ファンを増やして継続的なつながりをもつ施策をとる方針を打ち出し、2015年に会員制のコミュニティサイトの「&KAGOME」を立ち上げました。「&KAGOME」には、ユーザーが食をテーマに交流できる掲示板「トークルーム」、レシピやアレンジを投稿する「レシピのーと」、カゴメ商品の感想を書き込む「おいしいレビュー」、カゴメ製品などに投票する「どれにしようかな」といったコンテンツがあります。また、座談会やファンミーティングといった、ユーザーの声を直接聞くイベントを行っています。
「&KAGOME」の月間のアクション率は10~15%程度あり、活発なコミュニティの形成に成功しています。また、ユーザーの声を取り入れた商品開発にも取り組み、2019年3月に「カゴメ 濃厚仕立てのトマトソース」の新発売に至りました。缶に入っていた「カゴメ 基本のトマトソース」を改良した商品で、容器をチューブタイプにするとともに、従来の1.5倍のトマトを使用したことで濃厚な味わいとなっています。
コミュニティマーケティングで使えるSNS
コミュニティマーケティングでは、自社サイトを運営する方法のほかに、SNSも活用されています。SNSは簡単に取り入れやすい手法で、イベントの告知にも活用できます。
日清食品では、Facebookを活用して、カップヌードルのコミュニティマーケティングを行っています。更新頻度は月に数回ですが、ウィットに富んだ投稿を行っているのが特徴です。
たとえば、肉の日には謎肉が肉屋で販売されている画像やキーボードが謎肉になっている画像が投稿されています。また、夏の暑い日には、流しそうめん器にカップヌードルを投入した画像が投稿されていたこともあります。そうした画像にユーザーがコメントを寄せるなど、交流の場として機能しています。
カップヌードルのアカウントは、2020年9月現在、フォローが28万人を超えており、ユーモアのある投稿がファンを獲得しているといえます。
カルビーでは「サッポロポテト」シリーズで、Twitterによるコミュニティマーケティングを取り入れています。「サッポロポテト公式」のアカウントでは、毎月、アカウントのフォローとリツイートで応募できるキャンペーンを実施。また、間違い探しなどのクイズを投稿して回答のリツイートを求めたり、サッポロポテトに関連した投稿のリツイートを行ったりするなど、双方向のコミュニケーションをとり、ユーザーと接点をもつ場としています。
「サッポロポテト公式」は2020年4月にフォロワー数が10万人を突破し、9月の時点では14万人を超えるなど、ファンとのコミュニケーションの場として着実に成長しています。
Instagramによるコミュニティマーケティングを導入している事例として、155㎝以下の小柄な女性向けのアパレルブランド「COHINA」のケースが挙げられます。
市場規模が小さいことから、限られた顧客層にアプローチを図るのが目的です。毎日、小柄ライバーによるInstagram Liveを行い、実際にアイテムを着用したときのサイズ感や着心地を紹介するとともに、ユーザーの声を商品に反映させています。
COHINAは設立2年目となる2019年度は売上前年比2.2倍を達成し、2019年3月の月商は5,000万円を突破しました。Instagramのフォロワーは、2020年9月の時点で15万人を超えています。
コミュニティマーケティングの失敗例
コミュニティマーケティングの失敗例としてよくあるのは、登録ユーザーが少ない、ユーザーのアクションが少ないといった理由から、コミュニティが盛り上がらないケースです。
コミュニティを定期的にのぞいてみたくなるような興味を引くコンテンツを用意することが大切です。また、コミュニティに参加するユーザーの数を重視するあまり、景品で人を集める戦略をとると、自社の製品やサービスのアンチが紛れ込み、SNSなどで炎上してしまうことがあります。
●関連記事:認知度向上に成功した事例と失敗した事例~認知度向上のための施策も解説
コミュニティマーケティングに役立つ本
引用元:Amazon
コミュニティマーケティングに役立つ本として評価が高いのは、「ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング」(小島英揮 著)です。
Amazonのクラウドサービス「AWS」を日本で展開するにあたり、日本のマーケティング責任者として、コミュニティマーケティングを導入して自走するコミュニティに成長させたことで、成功を収めた自らの経験にもとづいて書かれた本になります。
数少ないコミュニティマーケティングの本の中でも、実践にもとづいていることから、多くの人に支持されている本です。
出版社 | 日本実業出版社 |
刊行年月 | 2019年3月 |
サイズ | 四六判 |
ページ数 | 256ページ |
価格 | 1,760(税込) |
購入ページ:Amazon
まとめ
コミュニティマーケティングは、自社の商品やサービスに愛着を持つフアンに直接アプローチができるマーケティング手法です。自社のファンのエンゲージメントを高めて、新たなファンを獲得することができます。ライフスタイルが多様化し、SNSが普及している現代において、コミュニティマーケティングはますます重視されるようになっていくでしょう。