ブランディング戦略とは
~成功事例と主な方法、おすすめの本を紹介

戦略・フレームワーク

ブランディング戦略とは何でしょうか?そして、それはどのように行われるのでしょうか?本記事では、実務担当者が直面する競争環境を中心にブランディング戦略の真髄に迫ります。

ブランディング戦略とは

ブランディング戦略の本質は、ポジショニングだといえます。ポジショニングとは、「ブランドを消費者や顧客のこころにユニークな存在として位置づける」ことです。たとえば、メルセデス・ベンツは「ドイツ製高級車」と位置付けられており、以下の言葉から成り立っています。

  • ドイツ
  • 高級

一方、同じドイツ製高級車でも、BMWは「ドイツ製高級スポーツカー」と位置付けられており、上記メルセデス・ベンツの要素に「スポーツ」という新しい言葉を加えたのです。

  • ドイツ
  • 高級
  • スポーツ

これにより、BMWは同じドイツ製高級車という市場のなかでメルセデス・ベンツとは別の価値を提供するブランドとして認知(位置づけ)され、消費者は車を買う時、「ドイツ製高級車ならメルセデスだけれど、ドイツ製のスポーツカーならBMWのほうがよさそうだ」と考えるのです。

ブランディング戦略の目的

なぜ、ポジショニングにこだわるのか?一言でいうなら「競争を回避するため」です。典型的な競争は物量戦です。つまり開発投資の量、マーケティング投資の量、営業マンの人数、広告投下量、そうしたものを競合と比べて、どの程度勝っているかが決め手です。

しかし、このゲームでは「大が小を制する」が明確で、小企業では到底太刀打ちできません。そのような「肉弾戦」を避けるためにポジショニングを明確にし、競合が入ってこられない、一種の「結界」を築くのです。競争を避けることが、実は最も有効な競争戦略にもなるわけです

ブランディング戦略の必要性

ポジショニングを明確にすると、「やるべきこと」「やる必要のないこと」も明確になります。たとえば、メルセデス・ベンツはドイツ製高級車なのですから「ラグジュアリー感の追求」「高度なエンジニアリングの追求」「富裕層とのコミュニケーション継続」「高級イメージの蓄積」などを行えばよいのです。

逆に「大衆車ラインの発売」「低価格車の発売」「ファミリー向けSUVの発売」「コスト低減を重視した品質」「安売り」などはやる必要のないこと、または「やってはならないこと」なのです。もしブランドがポジショニングに反して「やってはならないこと」を行うと、長い目で見てユニークなポジショニングを失うことになり、結果、業績の低下に繋がります。

そこで企業は成功したブランドをさらに成長させ、ポジショニングに忠実なブランド・マネジメントを行うよう「ブランド・ステートメント」という「ブランドの憲法」を用意します。なぜならば、ブランド・マネージャーが異動などで変わるとブランド自体の考え方や見方も変わり、同時にマネジメントそのものも見直されることが多いからです。それが原因で成功していたブランドのモーメンタムが変わることも多い。そのような人災を避けるためにブランド・ステートメントを用意するのです。

ブランディング戦略の成功事例

ブランディング戦略の成功事例

ただし、ブランド・ステートメントも万能ではありません。よくあるのは「成功したブランドを模倣する大手競合の出現」です。せっかくのユニークなポジショニングも物量戦に秀でた後発大手に真似をされてしまい、「本当はこちらのほうが良いのだ」と消費者や顧客に思われてしまうことはよくあります。

残念ながら、この模倣問題は解決することができません。そのような状況下でブランド・ステートメントにこだわる(固執する)と、やがてブランドは凋落していきます。ここがブランド・マネジメントの最も難しいところで、答えのない回答を決断しなければならない問題でもあります。平時には有効だったステートメントも有事の時には足かせになるのです。

市場環境、競争環境の変化による。これがブランドの世界のひとつの普遍的ルールです。このような環境の変化をうまく乗り越える企業は、「変えないものを承知したうえで、環境にあわせたポジショニングの再検討」をしています。一見、矛盾することのように思いますが、たとえるなら「アクセルとブレーキ」のようなものです。アクセル(変更)だけでもダメだし、ブレーキ(継続)だけでもダメなのです。それぞれを市場環境という「道路事情」にあわせながら、上手く乗りこなすのです。

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筆者が手掛けた事例―ブレンディ・インスタントコーヒー

すべての問題は「成功すると真似されることにある」。根本はここです。そこで私は、「真似されやすい業界」では「戦略的ジレンマ」という概念を紹介することにしています。つまり後発大手が「真似できるけれど、真似したくない」と、ジレンマを感じさせる戦略です。

ブレンディ・インスタントコーヒーの事例がそうです。「カフェオレ専用、冷たい牛乳にもサッと溶ける」というポジショニングでブレンディは成功しました。やがて競合のネスカフェ・エクセラもアイス・カフェオレのキャンペーンを始めました。この時、ブレンディは「詰め替えタイプ」の製品を出しました。容器をそれまでの瓶から袋に変えることで、より買いやすい値ごろ感を作り出し消費者の流出を防ぐ狙いでした。

この時、ネスカフェ・エクセラは袋タイプに移行することができませんでした。瓶タイプで70%以上のシェアをもっていたので、袋タイプに移行すると製品単価が下がり、売上を大きく落としてしまうからです。これが戦略的ジレンマです。後日、ネスカフェがカセットタイプ、高価格の詰め替え製品を出すまで相当時間がかかりました。その間にブレンディは20%ほどだったシェアを一気に30%まで拡大しました。

筆者が手掛けた事例―レミーマルタン(コニャック)

コニャックの主な市場は銀座や北新地といった高級クラブでした。そうしたお店は会社の接待が主で、顧客は社長や部長など管理職以上、40代以上の男性です。しかしバブルがはじけて以来、そうしたお店の売上は芳しくなく、レミーマルタンだけでなくコニャックというカテゴリーそのものが売上低下に悩んでいました。

そのような状況で、私はレミーマルタン・ルイ13世という、1本16万円もする「世界で最も高い酒」にフォーカスしました。なかでも「プチルイ13世」という、バカラ社製のミニボトルに入ったコニャックをブランド・コミュニケーションの中心に置きました。たった50mlしか入っていないのに、1本2万5千円もしましたが、主に20代の若い女性がバレンタインの「ギフト」として彼氏にプレゼントするものとして受け入れられました。高級クラブとは別の市場に、あらたなポジショニングを築いた例です。

ポジショニングを決定する要素

ポジショニングを決定する要素

ポジショニングを決定する要素は次の4つになります。

  1. ターゲット・オーディエンス(ターゲット顧客)
  2. フレーム・オブ・リファレンス(想定される競合ブランドの束。またはカテゴリー)
  3. ポイント・オブ・ディファレンス(差別化ポイント、競争優位点)
  4. リーズン・ホワイ(競争優位を築ける理由、または顧客ターゲットがそれを信じられる根拠)

これを次の一文で示します(ポジショニング・ステートメント)。

(ターゲット・オーディエンス)にとって、このブランドは(リーズン・ホワイ)なので(ポイント・オブ・ディファレンス)を提供できる(フレーム・オブ・リファレンス)である。

たとえば、先述したBMWにあてはめれば次のようになります。

(走りを愛するすべてのひと)にとって、BMWは(革新的なテクノロジーが生きている)ので(究極の走り)を提供できる(ドイツ製スポーツカー)である。

ポジショニングを変更するとは、これらのすべての要素、または一部を変更することを意味します。

ターゲット・オーディエンス

「走りを愛するすべてのひと」からわかるように、どのような欲求やニーズをもつ消費者・顧客をターゲットにするかが示されます。それには「インサイト」と呼ばれる、消費者の気持ちを洞察することが大事です。

インサイトの多くは消費者が潜在的に抱いている「不」、つまり「不便」「不満」「不安」「不都合」「不経済」などを探すことが重要です。BMWのターゲット顧客は「いまの車ではエネルギーを発散できるほどの爽快な走りができない」と考えているひとたちです。

フレーム・オブ・リファレンス

次に消費者が車を選ぶときに思い出すブランドは何か?いわゆる「〇〇と言えば、このブランド」と出てくる競合ブランドはどんなものか?ここで挙がるブランドの名前、「競合の束」がフレーム・オブ・リファレンスです。

リファレンスとは「参照」という意味なので、フレーム・オブ・リファレンスを意訳すると「消費者がニーズを感じた時に思い出す(参照する)ブランド群(フレーム)」となります。BMWであれば、思い出される競合ブランドはメルセデス、アウディ、レクサス、テスラなどかもしれません。

ポイント・オブ・ディファレンスとリーズン・ホワイ

メルセデスやアウディなどの競合ブランドに比べて、BMWが勝っている点、競争優位は何か?これが差別化ポイントです。そして差別化ポイントは何らかの理由、根拠が大事です。それがないと顧客から「大げさな」とか「うまいことを言って、信じられない」と思われかねません(懐疑的ポジショニング、オーバープロミスといいます)。

「革新的テクノロジーが生きているから、究極の走りを楽しめるのだ」というように、差別化ポイントとリーズン・ホワイは表裏一体の関係にあります。

ブランディング戦略について学べる本

ブランディング戦略について学べるおすすめの本は次の3冊です。

  • 水野与志朗「ブランド戦略【実践】講座(日本実業出版社)」
  • 水野与志朗「ブランド・マネージャー(経済界)」
  • 水野与志朗「THE BRAND BIBLE(総合法令)」

水野与志朗「ブランド戦略【実践】講座」

水野与志朗「ブランド戦略【実践】講座」

引用元:Amazon

■大学のマーケティング論でも採用されている、ブランドコンサルタントが書いた教科書

『たしかに赤裸々な失敗談が参考になる。2008年刊と昔の本だったので、今読んでも参考になるか少々心配でしたが、結論から言うと、普遍的な内容なので古さは感じなかったです。一番印象に残ったのは著者の成長プロセスで起こった失敗談など、参考になるリアルなエピソードが実名で描かれたこと。これって言っていいのかな?と思うほどでした。読み物としても面白く、飽きずに読み進められたのが有難かったです。』(アマゾン書評より)

 

出版社 日本実業出版社
刊行年月 2008年10月
サイズ A5判/並製
ページ数 232ページ
参考価格 1,760(税込)

本書購入ページ:Amazon

水野与志朗「ブランド・マネージャー たった一人のBMで会社がよみがえる」

水野与志朗「ブランド・マネージャー たった一人のBMで会社がよみがえる」

引用元:honto

■多くの消費財企業で新人マーケターの教科書として採用されてきた一冊

『良くありがちなマーケティング論、ブランディング論といった机上の空論ではなく、著者が実務経験を積んだからこそ語れる内容でした。実際の仕事の進行に合わせて、問題点とその解決方法が記載されております。読んでいる途中でも「そうは言うけれど・・・」という疑問が浮かんできますが、筆者は必ずそのような疑問に「・・・と考える読者もいるでしょう。」と述べております。その疑問はどうやら私の言い訳のようでした。ヤル気にさせる一冊です。』(アマゾン書評より)

 

出版社 経済界
刊行年月 2002年12月
サイズ 新書版
ページ数 222ページ
参考価格 880円(税込み)

本書購入ページ:Amazon

水野与志朗「THE BRAND BIBLE」

水野与志朗「THE BRAND BIBLE」

引用元:Amazon

■マーケッター編とトップマネジメント編の2冊組

『誰もが知っている有名な会社も多く面白く、サクサクと読めました。なんといっても事例が多く、著者が経験・体験されたことばかりなので非常に私は好きです。ちなみに私は営業マンで、値段を下げて売っては、利益が上がらないという悪いスパイラルに入っていましたが、この本にある、商品やサービスの価値を伝える営業スタイルにシフトしはじめてから、お客様から私に対する見方が徐々に、「 売り込み 」→「 先生 」のように変化してきた気がします。営業的な面からのコメントになってしまいましたが、ブランド・マネージャーの方、マーケッターの方、営業の方は読まれてみると面白いと思います。』(アマゾン書評より)

 

出版社 総合法令出版
刊行年月 2005年12月
サイズ 新書判
ページ数 2冊組、192ページ/182ページ
参考価格 2,090円(税込み)

本書購入ページ:総合法令出版

まとめ

ブランディング戦略の本質はポジショニングです。ポジショニングはブランドの立ち位置を明確にすることで競争を回避することを狙います。構成要素は「ターゲット・オーディエンス」「フレーム・オブ・リファレンス」「ポイント・オブ・ディファレンス」「リーズン・ホワイ」の4つ。競争状況に応じて、この要素を変更します。

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記事執筆者

水野与志朗

PROFILE

味の素ゼネラルフーヅ(現:味の素AGF)、欧米の外資系数社にてブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。書籍出版をきかっけにフリーのコンサルタントとして独立。2005年に水野与志朗事務所株式会社を設立。
「全力でクライアントに向き合う」をモットーに200社以上のマーケティング、ブランド戦略の業務支援・協力を行う。事業会社のブランド・マネージャー出身であることから「売上責任をもった事業経営者の視点」に立脚した支援を得意とする。